仕事に疲れ、ソファで寝転んでいた時だ。ふとキットの棚に目をやると、奥の方から何やら視線を感じた。立ち上がって中を覗き込むと、ラゴンとばっちり目が合った。などと書くと大袈裟に聞こえるかもしれないが、まったく予期していないタイミングでキットに呼ばれることはままある。もちろん振り切ることは可能だ。しかし、僕はこの流れを大切にしている。何かあるんだろうと漠然と思う。創作も然り。予期せぬ流れには随分と恩恵を受けてきた。
このラゴン、スタイル抜群だ。背が高く、顔は小さく、手足が長い。確かマイケル・ジャクソンってこんな体型だったはず。でもこのラゴンは雌だ。となると、浮かんでくるのは「映像研には手を出すな」と金森氏。そういえばちょっと顔つきも似ている。この顔で「仕事しろ!仕事!」と凄まれると抗えない。
原型は大石透氏。初版はマーメイドから1986年に発売された。まさにガレージキット黎明期に生まれた逸品だ。それから14年後の2000年、アトラゴン宮崎氏が復刻という形で再び光を当てた。今回のキットはその復刻バージョンである。とは言えそれももう21年も前の話になる。残念ながら宮崎氏も鬼籍に入られた。本当に時の経つのは早い……。
原型を見てみよう。海底原人という別名通り、全身に生えたヒレがラゴンの最たる特徴だ。ご覧の通り、折り重なるようにして表現されたヒレは生物感に溢れ、レジンの硬さを忘れるくらい柔らかにうねって見える。両手を広げ、前のめりになったポーズと目を剥いた表情は、子供を取り返えそうとする母の強さ、激しさが見事に表れている。こんな造型物が資料も乏しい35年も前に誕生していた事実に驚きを隠せない。
彩色はいかに緑を魅せるかを考えた。一番深い部分に暗い青を置いてみる。これを基点にして緑を重ねていく。ヒレはそれこそ何層も塗り重ねた。薄緑、その上に黄土色を乗せ、汚れや日焼け、痛みなどを表現するためエナメルの黄色と橙のクリアーを乾かしては乗せていく。やがて塗料の層が出来て、それが膜のように見えてくる。全身にはクリアーを吹いて半光沢な仕上がりを目指した。もともと存在感のあるキットなだけに、手を加えるのが楽しかった。
少し執筆に行き詰っていただけに、工夫する面白さを呼び起こされた感じだ。ラゴンに呼ばれたのはおそらくそういうことだったのだろう。どんなに忙しくても、好きなことはやるべきだし、続けるべきである。たとえ僅かな時間でもいいから日々やるべきだ。気力やアイディア、生きてるという実感は案外そんなところから生まれてくる。
全高 |
重量 |
全パーツ数 |
付属品 |
300mm |
335g |
13点 |
なし |
材質 |
原型師 |
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ウレタン樹脂 |
大石 透 |
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