キットと相対した時、ごく稀に心が構えることがあります。ゴジラを作る時がそうでした。思えばキングギドラも箱から出して最初の一歩を踏み出すまでに時間がかかりました。これも無意識に構えていたからかもしれません。ラドンもそうでしたね。エアブラシを持つ手が実にイイ感じに小刻みに震えていたのは緊張していたからでしょう。そしてモスラ(幼虫)です。今まで一度も向き合ったことの無い怪獣、決して避けていたわけではなく、入手するタイミングがほとんどありませんでした。それが今回、縁あってのご登場となりました。原型はすいかクラブのおぐらゆい氏です。おぐらさんのキットを手にしたのはこれが初めてなんですが、お世辞抜きで素晴らしい造型だと思いました。大きさ、バランス、特にディテールには感心しました。時折、過剰なくらいのディテールが施されたキットを見かけることがありますが、これ、行き過ぎるとお腹いっぱいになります。例えば料理、極端に派手な盛り付けをされて出てくると、本来の味が分からなくなります。シャンデリアやカーテンといった装飾品もそう。デコレーションがクドイと落ち着かなくなってしまいます。しかし、おぐらさんの造型は行き過ぎず、丁寧で、しかも本来のキャラクターをしっかり立たせています。モスラ(幼虫)の膨らみや凹み、稲妻が走ったような皺の出し方までが兎に角自然なのです。彩色していてじわりと色が染み込んでいくような感覚でした。ご本人曰く、「モスラが好きなんです」とのこと。なるほど、この表現は愛情によって造られているんだなぁとしみじみ思いました。
当然ながら作業は構えました。僕にとって初期東宝の怪獣達は特別な存在、自分の思う以上に別格に置いているみたいですので。加えてこのモスラ(幼虫)は彩色見本です。展覧会準備の際、懸命に梱包作業を手伝ってくれた御礼でもあります。塗装に入る前の下準備で注意した点は、パーティングラインの処理です。昔のキットのように段差がせり出しているような激しいラインはないんですが、無理やり削るとなまじ表面がつるんとしているだけに目立ちます。サフを薄く塗ってはラインを確かめ、削ったりパテを盛ったりして調整しながら進めました。彩色の方も難易度は高めです。何度も言いますが、シンプルなものほど誤魔化しがききません。モスラ(幼虫)の体色は茶色一色ですから、そこからどう変化をつけるかがカギになります。最初に少し明るめの茶色を全体に塗って、その上から黒で縁取りをしていきました。幼虫の側面には斑紋があるので、資料を眺めながらエアブラシで描き込み、その上から黒を抑えるように薄く何層も茶色を被せていきます。特に効果的なのはクリアーオレンジとクリアーイエローを調色した層です。一気にやろうとせず、下地の変化を見極めながら根気よく行うことが重要です。そのままではテカテカの艶まみれですから、しっかり乾いたら艶消しクリアーで全体を包みます。これで1トーン色が落ち着きます。目は太郎を青、花子を赤としました。赤は攻撃色、ならば糸を吐こうと口を開いている花子の方にしましょうと、これはおぐらさんとの打ち合わせで決まりました。
ワンフェス2023夏で販売されたモスラ(幼虫)のキット、完売の連絡を貰った時はホッとしました。いつも以上に構えまくって上がった肩をようやく下ろすことが出来ました。
全長 |
重量 |
パーツ数 |
付属品 |
300mm |
580g |
太郎(口閉じ11点) 花子(口開け15点) |
なし |
材質 |
原型師 |
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ウレタン樹脂 |
おぐら ゆい |
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