ずーっと眺めていられるこの感覚ってなんだろう。キットが完成した直後はテンションが上がるのが常なのだが、今回はちょっと違った。もちろん嬉しいは嬉しい。だが、どこか心は穏やかなのだ。モスゴジを机の上に置いてここぞという角度を決め、後はただぼんやりと眺める。
――子供の頃、東宝チャンピオン祭という企画があった。新作映画と一緒に旧作をくっ付けてリバイバル上映するのだ。「モスラ対ゴジラ」が何と併映だったのか、今はもう思い出せない。ただ、メインが霞むくらい夢中になったのだけは覚えている。スクリーン狭しと暴れ回るモスラとゴジラの激突に釘付けになった。僕が物心ついた当時(昭和46〜47年頃)、ゴジラはもう人間の味方になっていた。顔つきも優しくなり動きもユーモラスで、人間の言葉や感情を理解する正義の怪獣だった。だが、モスゴジは違った。徹頭徹尾悪役だった。これまで観たどんなゴジラより憎らしく、新鮮で、カッコ良く見えた。
……あの時スクリーンで観た姿が、今、目の前にある。変わったのは僕がオッサンとなり、お酒を飲みながらくつろいでいる事だ。30分でも1時間でもキットを眺めていられる。至福の時間ってこういうものだと思う。
最高のモスゴジを造ったのはクラバートガレージの竹添展氏だ。これがミワクシリーズの第一弾というから驚きである。一つ一つのパーツはもとより、全身を川のように流れる命の脈動のようなものが突き抜けている。そう、このキットは生きているのだ。だからこそ、いつまでも眺めていられる。まったく途轍もない造型作品だと思う。
だからこそ完成までの道のりは苦労した。組み上げ、下地処理を施してから彩色するまで、およそ一年は間が開いたように思う。これほどのモスゴジにどんな色を乗せればいいのか、自信もなければ見当もつかなかったのだ。他のキットをやりながら、時々目を向けては考えた。空いた時間に資料をめくってみたり、Amazonプライムで好きなシーンを流したりもした。そんなある日、古い映画を観た。最新のデジタル処理ではないアナログのままのフランス映画だ。これが実にいい。なんというか終始優しい波長で訴えてくる。自分でも不思議だったが、なぜだかこの感覚がぴたりとモスゴジと繋がった。
『かつてスクリーンで観た、あの時のモスゴジを再現しよう』
そうと決まれば早かった。黒いベースに筆で茶色を入れたり青を入れたりした。二つの色を混ぜ合わせることで全体のトーンが浮かび上がってくる。更に倉田浜干拓地の黄色っぽい土埃をエナメルのダークイエローを使って乗せた。ゴジラのゴジラたる所以でもある背びれも色を加え、埃でくすませた。次第に黒なのか緑なのか青なのか分からない、光の当たり方で様々な表情を見せるモスゴジの雰囲気が立ち上ってきた。
ゴジラは本当に奥が深い。塗るのは簡単だが表現しようと思うとそこに大きな壁が立ちはだかる。でも……これが毎回楽しいのだ。
全高 |
重量 |
パーツ数 |
付属品 |
290mm |
1600g |
16点 |
眼球補助パーツ |
材質 |
原型師 |
|
|
ウレタン樹脂 |
竹添 展 |
|
|
|