「ウルトラマン80」の物語、芯となるテーマは人間のマイナスエネルギーが怪獣化するというものだ。その捉え方は様々なケースがあり、ともすれば意味合いが広すぎて輪郭がぼやけてしまう。しかし、この第3話は対象を絞った。失恋した少年の哀しみ、憎しみが具現化して怪獣になったという設定はとても分かりやすい。恋愛や友情は誰しもが経験する。ザワザワとした気持ちがさざ波となり、やがて手の付けられない大波にまで成長することも心当たりがあるだろう。それは般若のような表情のホーに見ることが出来るし、硫酸の涙をほとばしらせてあたりを焼き尽くすのも、抑えられない(特に青春期の)衝動の表れだ。作品のテーマと設定が実に上手く融合しており、間違いなく80世界の核となる一本だと思う。
そんなホーを30cmサイズで具現化してしまったのはやっぱりこの人、ゴート杉本氏だ。同時期に発表されたクレッセントはまだいい。第1話を飾った怪獣であり、知名度もそれなりにある。でもホーは……どうなんだろう? ウルトラ好きにしかフィットしないのではないだろうか。だが、杉本氏は突き進む。果敢に挑戦する。自分の造りたいものに正直に向き合う。おぉ、なんという前向きなプラスエネルギー! つまりこのホーは、マイナスではなくプラスで具現化したものだったのだ。
さて、本編に登場するホーはナイトシーンばかりで形が分かりにくい。さぞや造型には苦労されたことだろう。だが、限りある資料から導き出されたカタチは圧倒的だ。大きな耳、おにぎり型の顔に無数の歯、全身には縄文土器のような文様が散りばめられている。背中にはゴモラのお腹のような突起がびっしりと生えている。実はデザイン的にも複雑な存在なのだ。何より驚いたのはその厚みだ。スラッと背が高い分、細身のイメージを持っていたのだが、横からみるとかなりの肉厚だ。こういう新発見をさせてくれるのもガレージキットの楽しさ、豊かさである。
ホーの体色は全身が茶色。彩色はスムーズにいくかと思いきや、これが甘かった。茶色で染めてしまうとメリハリが生まれない。かといって様々な色を足し過ぎるとイメージからかけ離れてしまう。悩んだ末にオーソドックスな彩色を施し、資料写真にある埃を被った感じを狙ってみた。バランスを考えながらタミヤのエナメル塗料、デザートイエローを乗せては拭き取っていく。失敗してもまた拭き取ってやり直せば大丈夫だから、思うままにチャレンジ出来る。結果、埃に色が紛れて単色だけれど複雑という相反する雰囲気を出せたのではと思う。難問はこれだけじゃ終わらない。ホーの腕やお腹にある鏡をどうするか? 彩色の達人である土井氏やkaz氏に相談したところ、ハセガワのミラーフィニッシュを使うことを勧められた。早速買ってみると、曲面追従金属光沢シートなるいかにも凄い名前がついている。勢い勇んでトライしてみると、これがまた、実に扱いが難しい。鏡面を貼りたい部分に押し当て、エンピツで形を出し、それをハサミで切って、シートの部分だけを剥がして貼る。作業手順はそういう事なのだが、老眼の身にはとてつもなく難儀なものだ。恨めしくて涙が出そうだった……。
こんな風に意外とハードルの高い怪獣だったが、完成してしまえば苦労は吹き飛ぶ。令和の時代にガレージキットとして甦ったホーをいろんな角度から眺め、悦に入っている。
全高 |
重量 |
全パーツ数 |
材質 |
360mm (耳の先端まで) |
1300g |
8点 |
ウレタン樹脂 |
付属品 |
原型 |
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なし |
杉本 浩二 |
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