2007/7/3 火曜日

『チーム10割、今は何割………?』

小森陽一日記 18:02:46

五人の男達がヤフードームに足を運んでゲームを観戦すると、その試合は必ずホークスに白星がついた。男達はいつしか自分達をこう呼ぶようになった。
「チーム10割」と――――。

柔道、そして機動隊で鍛えた大きな身体の師弟、福岡県警のSさんとYさん。怪しいちょび髭、しかし、プロスポーツ選手などの眼を治療する一流眼科医のT先生。いつも仏頂面の面構え、しかし先日もギャラクシー賞を獲得するなど実力者のCMプロデューサーSさん、そこに若輩の僕を加えた5人、これが「チーム10割」の正体だ。いい年こいたオッサン達が集まって、ビールとツマミを片手に野球観戦する。ヒットが出ると大はしゃぎ、ホームランが出ると立ち上がってお祭騒ぎ、まったく色気の欠片もない、実に無邪気な集団である。そんな無邪気さが功を奏したのか、今年、この5人がドームに集えば必ずホークスが勝った。メッタ打ちあり、投手戦あり、負け試合のような雰囲気から一転、大逆転勝利もあった。
「やっぱり俺等がおるけんばい!」
勝ったのは選手や監督の力である。が、完全に自己陶酔しているオッサン達には、勝利の要因は「自分達のおかげ」―――であった。

だが、酔いの始まりがあれば醒める日も必ず訪れる。それは楽天のルーキー田中くんが投げた日だった。
「あぁ………」
ホークスのバッターが空を切る。キャッチャーのミットにボールが収まった瞬間、球場全体が深い溜息に包まれる。だが男達は笑っていた。
「よかよか。次の回で綺麗さっぱり逆転ばい」
だが、同じおじさん世代の楽天山崎選手がホームランをかっ飛ばす。回が進むにつれますます点差は開いていく。田中くんのガッツポーズを見て、次第に無口になっていく。ぬるくなったビールをちびちび飲みながら、冴えない笑顔を時折見せる。
そして試合終了………。
「今日からチーム九割五分とかにしようか………」
田中くんはホークス相手に勝利を上げただけでなく、「チーム10割」の夢も打ち砕いたのであった………。

それからは坂道を転がるように負け続け、
「ところで今は何割?」
なんて、自虐的なセリフを呟く集団に成り下がった………。
だがこのままじゃ終われない!いよいよ後半戦突入、頑張れホークス!しみったれるな、「チーム10割」!! 

2007/6/26 火曜日

『福岡で舞妓Haaaan!!!』

小森陽一日記 19:14:09

先日、水田監督から「福岡、行ける事になったよ」と電話があった。「花田少年史」に続く監督の劇場作品、「舞妓Haaaan!!!」のキャンペーンの為だ。上映後、主演の阿部サダヲさんと舞台挨拶をすると言う。仕事も早々に店仕舞いしてもちろん駆け付けた。

撮影前、撮影中、撮影後、折々で色んな苦労話は聞いていたが、映画が始まった途端何もかもブッ飛んだ。高い高い!、まさにハイテンションムービーそのものである。僕が仕事に疲れた時に見る発奮剤のようなテレビドラマ、「僕の魔法使い」(水田伸生監督、宮藤官九郎脚本、阿部サダヲ出演)を更に上回るテンションと馬鹿ばかしさが全編に溢れまくっている。
「舞妓はんと野球拳がしたいっ!」
このテーマ一発で脚本を書いた宮藤さんって凄い。大真面目に2時間の映画を作ってしまった製作陣も凄い。お金を出した人なんてめちゃくちゃ勇気があってほんとに凄い。だが、いくら周りが気張っても、スクリーンを背負う人がコケたらお仕舞いだ。だが、この人は見事にやってのけた―――!!
 
エンターテイナーじゃなくて「えんたあていなあ」、名前は確かにカタカナだけど、評する形容詞は絶対ひらがなが合っている。彼のみが奏でられる笑い、猫のような眼差し、横文字をがなり立てても響きは和風………、現代日本においてまさに唯一無二の存在、阿部サダヲこそスペシャル「えんたあていなあ」だと思う。皆さんもどうぞ劇場に足を運んで、阿部さんの濃いぃぃぃぃ世界にどっぷりとはまって下さい。

2007/6/19 火曜日

『授業参観』

小森陽一日記 19:45:43

「これが主語、これが述語。では、この真ん中の文は何語というでしょうか?」
先生の問いに子供達の手が上がる。
『何語………?』
娘が手を上げたまま、僕の方を見る。物書きのパパなら当然分かってるよね、と言わんばかりに………。   
「それじゃみんな一緒に――」
「修飾語です!!」  
忘れてた………。教室の後の方で、のっけから変な汗を掻いた………。

今日は娘の小学校の授業参観日。土曜日だけあって、教室の後や廊下にはお母さんだけでなく、お父さんの姿も目立っている。授業は国語、テーマは「文章を作ろう」というもの。まるで僕に合わせてくれたようなテーマに、すっかり上機嫌で黒板を眺める。だが、機嫌がいいのは最初だけだった。出鼻を修飾語でつまづいた僕は、今度は先生の例題を見た途端目を疑った。
「ぼくは 東京にしんかんせんで 行きます」
そう………、飛行機嫌いの僕は上京する時、よほどの事がない以上新幹線を使う。だが、福岡から東京に新幹線で5時間掛けて移動する物好きはそうはいない。ほとんどの人が飛行機を使う。圧倒的少数派を例に取るなんて、例題としてはいびつ以外の何ものでもない。
『この先生、僕を狙い撃ちしてるな………』
その瞬間、笑顔は消えた―――。

残り時間、先生の話に真剣に耳を傾けた。狙い撃ちしているのなら倍にして返す。最高の例題を作る事、それが物書きのプライドだ。
「僕の家の虫かごには チョウなのかガなの誕生してみなければわからない サナギがいます」
どうだ、このセンス、不思議さと面白さとちょっとした科学が一文の中に織り込まれている。これぞ例題ってもんだろう。だがそんなプライドはすぐにへし折られた。
「宇宙人」を主語にする子、臨場感を交えて鹿児島のおじいちゃんにバナナを届けた話を披露する子、一見するとガキ大将のような子が「みんなで頑張りました」なんて事を言う………。素晴らしい。僕にはとても思いつかない例題が目白押しだった。
娘よ、ゴメン………。パパは授業参観ではなく授業参加をしてしまいました。

2007/6/12 火曜日

『講演会』

小森陽一日記 16:34:06

僕は基本的に講演会の依頼をお断りしている。表向きの理由は「忙しいから」、でも「照れくさい」というのが正直な理由だ。人前で喋らなくていいように物書きしてる訳だし………。しかし、年に数回、どうしても断れない所から依頼がやって来る。断ると、途端に仕事に影響が出てしまうような所から話が来る。今回もそうだった。SさんとAさん、海に造詣の深いこのオジサン二人を袖にすると、「トッキュー!!」や「海師」は確実に大ダメージを受ける事になる………。
「小森さん、やっぱり忙しくて無理ですよね」
「いえ………、オッケーです………」
最初からそれ以外の返答はあり得なかった………。

9日の土曜日、新潟県長岡市の長岡技術大学に出向いた。そこで開かれる年に一度の「着衣泳研究会」の研究発表会、僕はその中の特別講演者として招かれた。さて、「着衣泳研究会」とは、川や池や海に落ちた時、慌てて岸に戻ろうとしないで浮いている事、即ち、救助が来るまで生きている事を第一義とした団体である。消防や海保が現場に到着すると、すでに身体は水の中に沈んでしまっている事が多いのが紛れもない現実。
「そうなるともう、レスキューじゃなくて(遺体)捜索なんですよね………」
そんな風に寂しそうに呟いたレスキューマンは一人や二人じゃない。そうならないようにする為に、一人でも多くの命を助ける為に、救助の手が差し伸べられるその瞬間まで生きている事。「着衣泳研究会」はその事を懸命に教えている団体である。そして上記のSさん、Aさんはこの団体の指導員なのである。

―――講演はうまくいったのかどうかわからない。過去は気にしないようにしているから。夜は研究会の方々と新潟の美味しい日本酒を飲んだ。色んな銘柄を差し出され、最初は味わって飲んでいた。しかし、途中から杯が入り乱れ、何を飲んでるのかさっぱり分からなくなり、仕舞いにはそんな事などどうでもよくなった。沢山の人と出会って笑って時間が流れた。とても気持ちのいい時間だった。皆さん、お世話になりました。またどこかでお会いしましょう。でも講演会だけは勘弁して下さい。

2007/6/5 火曜日

『趣味』

小森陽一日記 19:59:41

ある編集者がこう言った。
「この趣味を止めればもう一本作品が書けるじゃないですか!」
僕は答えた。
「絶対止めん………」

昨夜、思い立って完成させたキットの数を数えてみた。171体あった。171体………、確かに少ない数ではないと思う。組み立てに手間のかかる奴や塗り分けの面倒な奴、中にはパーツを自作しないといけない奴もいる。キットそれぞれで時間の掛かり方は違うが、僕の場合、平均すると1体を完成させるのに2日半から3日は掛かる。これに要した限りある人生の時間を計算すると………、計算すると………、計算すると………、いや、するまでもない!この趣味は人生の栄養だ!これがあるから仕事もやれてんだ!誰がなんと言おうとこれからも絶対止めん!!!


さて今回は、ガージキットの(我流)作り方を簡単に解説したいと思います。

①「箱の中身」

ガレージキットはだいたいこんな感じで箱の中にパーツが入っています。大手メーカーで作られたものではなく、文字通りガレージ(倉庫)の中で手製で作られた物がほとんど。よって、パーツの欠けや気泡はもちろんパーツ同士がきちっと噛み合わないなんて事も茶飯事です。でも、怒らないように。これはこれで楽しみましょう。

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②「パーティングライン処理」

二分割した型を一つに整形した時に出来る合わせ目です。少しのズレならまだしも、「地割れか!?」と疑うような大きな段差まで様々なものがあります。これを根気よくヤスリで削って慣らしていきます。

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③「離型剤落とし」

元型から整形した物を剥がす時、スムーズに取り出せるよう各パーツの表面に油を塗ります。これが離型剤と呼ばれる油分です。この油をきちんと洗い落としておかないと、今度は塗装がヒビ割れたりパラパラと剥がれ落ちるなど洒落にならん事になります。

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④「パテ埋め」

洗浄後、パーツの接合部分をパテで埋めていきます。ヘラや爪楊枝や指先など使えるものはなんでも使い、回りのモールドに馴染ませて?ぎ目を目立たないように仕上げます。ひたすら根気です。

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⑤「塗装準備オッケー」

パテが乾いたらサーフェイサーと呼ばれる下地剤を全体に吹き付けます。サーフェイサーの役割は、パーツの下地色を塗装しやすい色に塗り替えたり(ゴモラの空色を白に)、塗料の食い付きを良くするといったもの。サーフェイサーを吹き付けずにキット本体に直接塗装すると、やがて塗料が剥げてくる可能性があります。
下地処理が完了したら、目や歯、爪など白い部分にはマスキングテープを施します。

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⑥「塗装開始」

エアブラシを使ってラッカー塗料(Mr.カラー)を吹き付けます。一番ベースとなる濃い色を全体に、凸部分にはそれより少し明るい色を数段階に分けて乗せていきます。

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⑦「ウォッシング」

今度はエナメル塗料を使ってウォッシングしていきます。薄めた塗料を全体にまぶすとキットの皺など窪みに塗料が溜まり、その事でメリハリが生まれます。

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⑧「目は命」

僕は最後の最後に瞳を描き込みます。「芸能人は歯が命」、「怪獣は目が命」です。納得いく瞳になるまで何度でも挑戦あるのみです。

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⑨「完成」

ようやく完成です。四方から眺め悦に入る一時です………。

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⑩「個展会場」

2004年8月12日から9月12日まで、福岡市天神にあるイムズビル内、三菱アルティアムの会場で個展を開きました。大人も子供も、ほんとに沢山の人が見に来てくれて嬉しかったです。またその内、福岡だけじゃなく別の街でも開きたいですね。
もう一つのサイトでは、僕が作った作品を公開しています。ちなみに写真も自分で撮りました。ガレージキットの世界に触れつつ、皆さんに楽しんでいただけましたら幸いです。

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ガレージキット – 小森陽一プロダクト
http://www.y-komori.net/garagekit/

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