2007/10/16 火曜日

『秋に想う』

小森陽一日記 18:53:00

すこぶるいい天気、風も心地いい。
午前中で「トッキュー!!」も書き終えた事だし、ブログのネタでも見つけにと散歩へと繰り出した。

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本屋に立ち寄って田中芳樹さんの「月蝕島の魔物」と奥田英朗さんの「サウスバウンド」を購入、そのままスルスルと行きつけのお鮨屋さんへ。
「昼間からとは珍しいですねぇ」
と若大将に声を掛けられ、
「散歩です。ブログのネタ探し」
なんて返事を返した。
すると―――、
「ネタならここにいっぱいありますよ」
見ると、ショーケースの中には新鮮な鮨ネタがぎっしり。
「ネタはネタでもこれはねぇ………」
なんて苦笑いしたが、しっかりとネタにさせてもらった。ありがとう、若大将。

昼間はまだ日差しが強い。しかし、木々の先を見るとうっすらとだが朱に染まった葉っぱがある。猛烈に暑かった今年の夏、しかし確実に季節は次へと巡っているのだ。

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秋と言えばシーズンオフ。ホークスもクライマックスシリーズを敗退し、今年のシーズンを終えた。終了間際、不振に喘いでいた背番号3に元気を出してもらおうと、我がチーム10割は一つのプレゼントを計画した。名付けて「男、打ち。」Tシャツ。

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「男、打ち。」とはチームメンバーであるCMプロデューサーS氏が放った「ベースボール・スパーリング」篇の中のロゴ。このCMは最高のインパクトで今年のACC金賞を獲得した。細かいデザインの打ち合わせは眼科医のT先生が、資金集めからシャツ製作の発注など細々した事を県警のSさんYさんが、そして何より、背番号3の、チーム10割の、そして多くの人々の桃源郷であるお店のFマスが、店のロゴ出しを認めてくれた。みんなの気持ちがぎっしり詰まったプレゼント、もちろん松中さん本人が大喜びしてくれたのは言うまでもない。

今シーズン、チーム10割の5人がこのシャツを着て球場に揃う事は一度もなかった。だが、球場に行く時には必ず着て出掛け、行った時には必ず勝った。「チーム10割、復活だ!」。シーズン途中の意気消沈ぶりはどこへやら、ゴウゴウと怪気炎が上がる。だが、その夢をぶち壊したのは僕からだった。必死に応援したにも関わらず完封負け。試合途中、メンバーからは苦情のメールや同情のメールが幾つも届いたのだった………。

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夜、球場からタクシー乗り場までとぼとぼと歩く。思えばその夜から急に風が冷たくなった。どうやら一番最初に秋が訪れたのは僕だったようだ。

2007/10/9 火曜日

『三度、大島へ』

小森陽一日記 18:51:30

先日、山口県周防大島町にある大島商船高等専門学校の招きで講演を行った。これで、大島に渡ったのは都合三度目となる。

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一度目は大島文化センターにての講演、二度目は「トッキュー!!」の取材である。どうして大島にこんなに縁が出来たのかというと、近藤慶太郎、もとい、藤井敬司先生の存在による。

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神林兵悟の海上保安学校時代の恩師、近藤教官。藤井さんはまさに近藤のモデル(そのまんまという話もあるが………)なのだ。藤井さんとの出会いはかれこれ7、8年ほど前に遡る。その時僕は「海猿」の関門海峡二重衝突事故編に取り掛かっていた。沈没した「エイジアントリップ号」に接触し、船体に亀裂が発生、浸水を始めた「くろーばー号」というあの話だ。当時藤井さんは九越フェリーというフェリー会社に在職されていた。福岡海保の紹介で藤井さんと出会い、フェリーの取材をそれこそ何度もやらせてもらった。そして大ネタ小ネタを数々いただき、「くろーばー号」からの生還という話を作る事が出来た。この話はやがて「リミット・オブ・ラブ」にも繋がり、藤井さんにはフェリーの監修をしていただいた。要するにめちゃくちゃお世話になっている人なのだ。こんな人から「頼むで」と言われれば、普段はやらない講演もこなす。いや、こなさなければならない―――。
  
講演の内容は「もの作り」というテーマで行った。どういう想いで作品を作っているのかを軸に、書く事になったきっかけや、こだわりなどを話した。途中、マガジン編集部やスピリッツ編集部、久保ミツロウや武村勇治の仕事場の写真を織り交ぜ、あろう事か締め切りであたふたしているマンガ家二人にビデオに向って話をさせ、僕に割り振られた時間を少しでも潰した。講演の出来はどうだったか、それはわからない。過去は振り返らない主義だから。兎に角無事に務めは終えた。藤井さんへ、少しでも恩返しが出来たのなら嬉しい。

余談だが、三度渡った大島で一番印象に残っているのは風景でも学校でもない。和氣校長先生のお顔だ。どこかで見た事があると思ったら、歴史の教科書に出ていた、明治の偉人達にそっくりだ!?

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2007/10/2 火曜日

『素人匠』

小森陽一日記 18:18:36

ウルトラ怪獣のガレージキット、作りも作ったり180体。その中でもボークスのJr.シリーズは、何時の間にか170体を越える数となった。ここまで来れば目指すはコンプリート、大バカの極みとも言うべき「素人匠」の称号を勝ち取るのみ!!

月末、講談社の編集N氏とカメラマンのM氏が来福、仕事場のガラスケースに並ぶキットの群をカメラに収められた。だが、撮っても撮っても終わらない………。170体の撮影はそれこそフルマラソン、怒涛のようなものであった。お二人とも、とにかくご苦労様でした。ゆっくりと疲れを取って下さい。

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そうそう、この模様がなんなのかは近日報告させて頂きます。どうか皆さん、お楽しみに。

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2007/9/25 火曜日

『ガンマンへ』

小森陽一日記 17:34:22

舞台挨拶を見ていて「疲れ気味だな」と感じた。だが、控え室に顔を出すと変らない笑顔がそこにあった。今回の役柄は孤独なガンマン、お似合いの役だった。時折覗かせる優しい目の光が実に彼らしいと思った――――。

伊藤英明―――、一言で言い表すと「いい奴」だ。熱くて、愉快で、子供みたいで、とても「いい奴」だ。初めて会った時からこの印象は変らない。今回は「スキヤキウエスタン ジャンゴ」の舞台挨拶で福岡にやって来た。丁度上京する前日だったので僕の予定も開いていたし、何より久し振りにゆっくりと話もしたかった。今年は「ジャンゴ」に始まって「輪違い屋糸里」、「孤独の賭け」、「ファーストキス」と休みなく仕事を続けてきた英明くん。さすがに勤続疲労は否めないし、この日もほとんど寝ていなかった。だが、話し出すとそんな疲れはどこへやら、次々に色んな事を話し、考え、そしてまた話し出す。まったく大したエネルギーだと思う。僕はいつもこのエネルギーを分けてもらっている気がする。

ただ、どうか身体にだけは気をつけて。君の替わりは誰にも出来ないんだから。それじゃまた近いうちに―――。

2007/9/18 火曜日

『贈り物』

小森陽一日記 17:38:52

皆さんはどういう基準で贈り物を選ぶだろうか。僕は自分の住んでる地域の特産物を送るか、もしくは相手の好みを知っていればそれを選んで送るようにしている。これまで相手から「結構な物を頂戴しまして」と言われてきた。概ね喜んでいただけているのではないかと(勝手にだが)思っている。ただ、贈り物をして「なんでこんなしょうもないもんを」と面と向って言われる事はまずない。言う人も言われた人もほとんどいないと思う。でも僕はそんな数少ない経験をした事がある………。

若かりし頃、NHKのドキュメント番組を作っていた時だ。ある有名な禅寺に取材を申し込みに行った。最初はあっさりと断られた。二度目で少しだけ話を聞いて頂いた。そして三度目、ようやく老師と呼ばれる高僧にお会いする事が出来た。僕は懸命に番組の趣旨を説明した。したのだと思う。緊張していたので何を話したのかよく覚えていない。数日後、お寺から電話があった。「許可します」との返事だった。僕は嬉しくなってすぐにお礼を言いに向った。途中、和菓子屋さんに立ち寄って、お土産にと餡子入りのお餅を買った。本堂へと続く石畳をお土産を抱えて歩いて行く。そろそろと玄関を開けると、これまでの張り詰めた空気がまるで嘘のようになくなっていた。老師を始め皆さんが僕を穏やかに迎えて下さった。もちろん自然と笑顔になる。舌も滑らかになり話も弾んだ。その時だ、小僧さんがお皿を抱えて現れた。見ると僕がさっき買ってきたお土産の餡子入りお餅が乗っていた………。
  
「いただきましょう」
そう言って老師が僕を見る。僕は戸惑った。なぜって―――、この世で餡子とお餅ほどキライなものはないからだ。僕の一瞬の戸惑いを老師は見逃してはくれなかった。
「なぜ食べないんですか?」
「………」
神様、仏様、お坊様の前で嘘はいけない。そう思った僕は正直に理由を話した。
「バカモン!!」
突如、耳元で鐘を叩かれたような大音響が響く。呆然とする僕に老師は言った。
「あなたは自分の食べれないものを贈り物に選んだのか?自分が美味しいと思えないものも贈り物にしたのか?ここには真心の欠片もない。帰りなさい!」
もちろん平謝りに謝った。しかし老師は席を立ち、ついに許しては貰えなかった………。 
お坊さんはきっと甘いものが好きに違いない。自分の勝手なイメージで、まったく安易に餡子入りお餅を選んでしまった。後悔してもどうしようもなかった。
数日後、再びお寺から電話があった。来なさいという内容だった。あれだけ老師を怒らせたのだ。万に一つも撮影許可が下りる訳がない。暗澹たる気持ちでお寺に向った。途中、お土産を買って………。

「撮影を許可します」
老師の言葉に思わず腰が砕けそうになった。なぜそうなったのか、老師は何もおっしゃってはくれなかった。ただ、側にいるお坊さんが、
「君はバカだけど正直者だ。そこが気にいられたんじゃないか」
小声でそう言われた。
暫くして僕のお土産がお皿に乗って出てきた。今回はチーズケーキ、僕の大好物を買ってきた。
「このチーズケーキは美味しいです………」
恐るおそるそう言った。すると老師は、
「そうですか、では頂きましょう」
と食べ始めた。目元にはうっすらと笑みが浮かんでいた―――。

皆さん、贈り物をする時には自分の嫌いな物を選んではいけません。僕みたいに痺れる経験をする事になりますから………。

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