2008/2/5 火曜日

『道具』

小森陽一日記 17:27:40

本日、我が家のクローゼットにある太い柱の位置が変った。引越しの時、こちらの測り間違えで柱と収納スペースの間隔が数ミリ狭く、予定していた箪笥が入らないという失態をやらかしてしまっていた。それを修正したのが大工さん、僅か一日半でのお仕事だった。動く度にガチャガチャと腰のものが鳴る。ベルトに挟まった様々なカタチの道具を見もしないで取り出し、自在に扱って、仕事をこなしていく。実に素晴らしい―――。

道具を見るのが好きだ。海保の、消防の、医者の、その職種に息づく道具、使われながら改良され、発展してきた色々な道具。そしてまた、個人個人が自分の使いやすいように工夫を加えたスペシャルな道具、その世界やその人が道具を通して透けて見えるのがたまらない………。

道具に惹かれるのは、僕の仕事がほとんど道具らしいものを使わないからかもしれない。どこにでもあるパソコンと、どこにでもある机、どこにでもあるペンを使い、原稿を書く。工夫する事と言えば痔にならないようにクッションの位置を気にするとか、椅子の高さを調節するとか、これは打合せ用のペン、これは手紙用のペン等太さやグリップ、滑りなどで使い分けているとせいぜいその程度だ。

いや待てよ、キット作りとなると道具に拘るな………。ドライブラシ用に毛先を切り取ったり、爪楊枝の先端を鋭くしたものから丸く潰したものまで数種類用意したり、カッターのグリップに輪ゴムを巻いて滑り止めにしたり………。

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道具からその人が透けて見える………。
娘が小学校一年生の時、「パパのお仕事は?」と先生に尋ねられて「怪獣を作る事です!」と自信タップリに答えていたのはあながち間違いではないのかもしれない………。

2008/1/29 火曜日

『出せ!入れろ!また出せ!』

小森陽一日記 18:00:31

妙なサブタイトルとなってしまったが、何も大人の話題をしようというのではない。

ここ2週間ほど、憑かれたような日々を過ごしている。本を読み、音楽を聴き、映画を観て、ゲームをしまくり、人と話す―――。そこにはジャンルも何もない。もはや手当たり次第、片っ端からという感じである。例えるなら、乾き切った喉を潤すのに似ている………。

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創作活動とは即ち出す行為だ。自分の内なるものをカタチにして出す。蓄積し、発酵したものが己の中を通って出て行く。やがて一つの作品を作り上げると、相当量のものが出る。だから入れる。色んなものを片っ端から詰め込む。そして、その時が来るまで熟成させるのだ。だが、溜め込むばかりではやがてパンパンになって何も入って来なくなる。溜め込んだものに満足して流れを止めると、淀む。淀みからは決して何も生まれない………。

偉そうな事を書いたが、これらはすべて先輩であるSプロデューサーの受け売りだ。20代の頃、溜め込むだけ溜め込んでそれで満足していた時に、スパッと喝を入れられた。
「まず出せ!全部吐き出せ!そこから始めろ」
最初はなんの事だかさっぱりわからなかった。そして言い渡された事、このCMのキャッチコピーを1,000通り考えろというもの………。
「1,000通り、ですか………?」
一瞬呆然とした。だが、すぐにやり出した。自分ならやれると思ったし、見返してやろうという気持ちで机に向った。100、200、スラスラ書けた。500、まだ余裕があった。紙の束が積み上げられて行く。700、800………、苦しくなった。書いたものを何度も見返しては、フレーズの少し違ったものを書いた。それでも900を超すと何も浮かばなくなった。頭がスカスカで言葉が引っ掛からない。最後は図形を描いた。本当にもう何も想像出来なくなっていた………。現れたSプロデューサーに、
「もう何も浮かびません………」
と頭を下げた。するとSプロデューサーはおもむろにゴミ箱をひっくり返し、中から紙の束を取り出してめくり始めた。その紙の束はラスト100、何も浮かばなくなって苦し紛れに書いた落書きのようなものである。やがてそこから一枚を取り出してこう言った。
「ここにある」
と――――。

食べる。それが血となり肉となって大きくなる。残りは出す。そしてまた食べる。誰しもが、すべての生物が日々等しくやっている事。当たり前の事。それ以後、このイメージは自分の背骨となった。今あるのもこのイメージと、それを教えてくれたSプロデューサーのおかげだと思っている。

2008/1/22 火曜日

『チョイス』

小森陽一日記 17:07:14

久し振りに服を買いに行く。棚に置かれたもの、ハンガーに掛けられたもの、袋詰めにされたもの、蟻の巣のような狭い通路を巡りながら服を選び取って行く。今回はその中から4着を選んだ。 

選ぶという行為。我ながら、随分変ったな………と思う。昔は何に対してもほとんど選ぶという事がなかった。ご飯は決まって「カレー」か「ハンバーグ」か「ラーメン」。車は動けばいい。靴は履ければいい。もちろん服は着れればいい。まったく同じ白いシャツを買い揃え、ひと夏を同じ格好で過ごして呆れられた事もある。「ドラマの中だけかと思ったけど、ほんとにこんな人がいるんだ」と………。
シンプルな男はカッコいい。果して本当にそうなのかはわからない。ただ、いつの頃からか僕の中に、選んだり迷ったりするのは恥ずかしいという想いが芽生えたようなのだ。
「これ、どっちがいいかな?」
と聞かれれば、
「これ」
と即答する男。
「将来、この道に進もうか、それとも違う道にしようか迷ってるんだよね」
と言われれば、 
「この道が合っていると思う!」
と迷わず言う男。
思い返せば自分はこんな感じだった。だから、どっちにしようかなぁなんて他人の前で迷える筈もなく………、即断即決の男らしい男に自分を仕立て上げて行ったように思う。

どれにしようかな?
沢山あるものから好きなものを選ぶ。選んだものがもっとも自分に合っているかどうかは分からないが、選んでいる時に流れる時間は確かに楽しいものだ。自ら料簡を狭めてきたせいで、色んなものを沢山見過ごして来た。今更、地団駄を踏む思いである………。
男四十にして、ようやく呪縛が解けようとしている。

2008/1/15 火曜日

『新年一発目』

小森陽一日記 17:40:23

先日、「トッキュー!!」チームが集合した。担当である少年マガジンのSさんとTくん、そして久保ミツロウとその友人Hさん(ユリの苗字はこの人から取った)だ。昨年末の打合せの時、新章の仕込み取材を久保さんの帰省のタイミングでやってしまえたら―――と話をしていた。だが、取材はなにせ先方の都合がある。こちらの思惑通りに進む筈もない。しかも正月明けだ。連絡すらままならない。だが、事はトントン拍子に進み、年明け10日で全員集合、素晴らしい取材と相成った。

それにしても「トッキュー!!」は新年早々の取材が多い。確か昨年の新潟もそうだった。数年前、吹雪の中、西海橋周辺を巡視艇で巡ったのもこの時期だったと記憶している。なぜそうなるのかと言えば、―――そうしないと間に合わないからである。

取材しないと、ホンモノを見ないと決してリアリティは生まれてこない。これは絶対の法則である。だが、取材をするには時間がいる。移動に、現地で、ちょっと遠くに行くとなると一泊となる。この時間を捻り出すのが難しい。特に久保ミツロウというマンガ家にとっては至難の業なのだ………。

久保ミツロウは間違いなく才能がある。画才、文才、構成力云々。ここで僕が大声を張り上げなくとも皆さんは当にご存知だろう。だが、この人にはこんな才能もある。
「待たせる事」
ネーム、原稿は言うに及ばず、打合せに待ち合わせなど、兎に角様々な事で人を待たせる。そりゃぁもう芸術的ですらある。
現地の取材先で、
担当S「(小声)久保さん、ネームは?」
久保 「(小声)まだです………」
担当S「………」
久保 「………」
ピンと張り詰めた空気が辺りを包み込み、
小森 「(おたおた)………」
 
こういったシチュエーションにはもう飽きるくらい遭遇した………。だから取材は新年早々、合併号の貯金がある時じゃないと間に合わないのだ!

取材に協力していただいた皆さん、本当にありがとうございます。皆さんのおかげで無事に「トッキュー!!」の新章が描けます。

追伸
みっちゃん、今年は頼んだよ!!

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2008/1/8 火曜日

『そして新年は始まった―――』

小森陽一日記 17:59:28

大晦日は雪となった。
最初に雹のような雪、やがてそれは粉雪に変った。庭がみるみる白に染められていく。平地でこんなに雪が降るのは久し振りの気がする。年賀状を書く手を止め、思わず写真を撮った。

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今年は異常気象続き、冬もまったく冬らしくない温い日々が続いていた。そんな中、最後の最後にこの雪だ………。「偽(いつわり)」と評された2007年、この雪が真っ白に締め括ってくれた―――。

年が明け、近所のお宮さんに初詣に出掛ける。お参りを済ませたら、福笹と御札、そしておみくじを買う。これはここ数年来の恒例行事だ。

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おみくじは「吉」だった。頑張れば得られる――とある。昔から頑張る事は得意だ。だからきっと得られるのだろう。単純にそんな事を思いながらおみくじを結んだ。

2008年、真っ白になった地面にどんな足跡を残そうか。
………色々と騒々しい年になりそうだ。

明けましておめでとうございます。
どうぞ今年も宜しくお願いいたします。

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