2009/11/24 火曜日

『THIS IS IT』

小森陽一日記 13:28:30

公開されて3週間以上が経った夜19:30の劇場は、すべての席が人で埋まっていた。まず、この事実に激しく驚いた。少なからず映画の興行の事は分かっている。映画は封切初日の2日間、土、日が大勝負なのだ。そこで当るかハズレるか、ほぼすべてが決すると言っても過言ではない。なのにこの「THIS IS IT」はなんだ?「崖の上のポニョ」でさえ、3週目でここまでの占有率はなかった筈だ。呆然としながら上映を待った。

答えはすぐに分かった――――。

マイケルがスクリーンに登場した時、ゾワッと全身に鳥肌が立った。自分でも不思議だった。そこまでマイケルにのめり込んだ事はない。妻はコンサートにも行ったほどのファンだったようだが、自分はポップスよりもロック、寝ても覚めてもブルース・スプリングスティーンだったから………。そんな自分がマイケルを見た途端、ゾワッと鳥肌を立てた。

マイケルがステージで踊り出す。選びに選び抜かれたダンサー達が心底瞳を輝かせてマイケルを見つめ、そして渾身のエネルギーでマイケルと共に踊り出す。マイケルは音楽も導いて行く。リズムがマイケルの動きと同化して行くのが手に取るようにわかる。一挙手一投足で音楽を巧みに操っていくのはマジシャンのようだ。光も映像もそう、何もかもがマイケルを中心に溶け合い、誰も体感した事がないほどの圧倒的な一体感が押し寄せて来る………。マイケルは終ってなんかいない。旬を過ぎてなんかいない。今が、この時が、この瞬間がすべて。そこには紛れもないキング・オブ・ポップの姿があった――――。

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決して妥協を許さず、最高のパフォーマンスを観客に届けようという姿勢、マイケルのそんな姿に人は胸を打たれる。これは言うなれば人生訓だ。キラキラと光り輝く燃焼という生き方をその身を持って見せてくれる。マイケルの姿を見つめながら、人はどう生きるべきかを想うのだ。そして何かを感じた人が友達に、兄妹に、恋人に、家族にその事を伝える。それが超満員の劇場へと繋がって行く。未見の方、この作品はお勧めします。

決して上から目線で言う訳じゃない。ただ、映画を観た後に心底こう思った。マイケルにコンサートをやらせてあげたかった………。

追記
11月22日は語呂合わせで「いい夫婦の日」なんだそうである。ちなみに嫁さんの誕生日もこの日なのだ。もちろんプレゼントは日頃の感謝を込めて、本人の欲しいというものを送らせて頂きました。一つじゃなかった………。二つだった………。
翌日は勤労感謝の日、冬支度の一環としてバカボンのパパよろしく庭師として頑張りました!!

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2009/11/17 火曜日

『山崎豊子さんを追っ掛けて』

小森陽一日記 15:41:19

世は再び山崎豊子ブームなのだそうだ。ちなみに僕は違う。ブームと言うのは浮き沈みする事。山崎さんに関して、僕はまったく浮きもしなければ沈みもしない。ずーっと好きで追い掛けている一追っ掛けファンなのだ。

 今秋からフジテレビが「不毛地帯」のオンエアをスタートさせた。開局50周年記念番組、もちろん第1話から毎週欠かさず見ている。1976年、今から33年前、山本薩夫監督がメガホンを取った映画も観た。二次防でラッキードとグラント、近畿商事と東京商事の熾烈な攻防をメインに据えて描かれた作品だった。壱岐を仲代さんが、川又を丹波さんが、貝塚を小沢さんが演じていた。もちろん映画も面白かったが、如何せん尻切れトンボの感は否めなかった。だって山崎さんの「不毛地帯」、壱岐正の商社マンとしての闘いはまさにそこから始まるのだから………。
今回フジテレビは2クール、半年掛けての放送枠でそれに応えるという。唐沢さんの壱岐、原田さんの大門、岸辺さんの里井、遠藤さんの鮫島、小雪さんの千里……、キャスティングはほんとにはまっている。ホンもまったく媚たところがなくて好きだ。かつ、原作の出来事をより壱岐に集約させていて、それがまた劇的な効果を生んでいる。素晴らしい。さらにエンディングテーマ、トム・ウェイツの濁声が聞こえてきた時には心底しびれた。泣けてきた。フジテレビの本気、底力を存分に見た感じだ。スタッフ・キャストの皆さん、大変だと思いますが、どうかこのまま真っ直ぐに突っ走って下さい。心より楽しみにしております。

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もうひとつ、先日「沈まぬ太陽」を観た。幾つかの理由で映画化不可能と言われて来た山崎さん渾身の作品の完全映画化だ。上映時間3時間22分、久し振りのインターミッション付き………、しかし僕は長さを感じなかった。むしろもっと観たいと感じるほどだった。個人、友人、家族、会社、誇り、この作品には無数のキーワードが存在し、様々な出来事を通して自分の胸に突きつけられる。「あなたならどうする?どう生きる?」と………。渡辺謙さん演じる恩地と三浦友和さん演じる行天は言うに及ばず、りつ子を演じた鈴木京香さん、そして行天の愛人、美樹を演じた松雪泰子さんが素敵だった。椿のCMの受け売りではないけど、日本女性の良さをあらためて感じる事が出来た。とにかくこの「沈まぬ太陽」はスタッフとキャストが本気で取り組み、本気の映画を産み出せる土壌がこの日本にはあるんだ、その事を思いっ切り感じさせてくれた。心から賞賛の拍手を送りたいと思う。

2009/11/10 火曜日

『特撮に想いを馳せた夜』

小森陽一日記 11:04:28

今時の人は特撮と聞いてもピンと来ないかもしれない。特撮とは特殊撮影の略称、創造力と技術力とそれを成し遂げようという努力によって産み出された、誰も見た事のない映像世界だ。今のCGを否定する気はまったくないし、CG映像も大好きだ。だが、特撮はやはり自分の原体験、血肉として、特別なものとして今も尚僕の中に深くある。

それは実に唐突だった―――。
ある日、佐原健二さんからマネージャーを兼ねた息子さんを通してメールが届いた。「福岡で仕事があるので、それが済んだら食事をしよう」というお誘いだった。もちろん伺わない訳がない。万難を排して駆けつけます!との返事をさせて頂いた。僕にとってはスクリーン上の、ブラウン管の中の、そして愛すべき特撮作品の主役、佐原健二さん。「空の大怪獣ラドン」では炭鉱技師、河村繁、「マタンゴ」では漁師、小山、「モスラ対ゴジラ」では金の亡者、虎畑、「ゴジラ」シリーズでは最多出演を誇り、「ウルトラQ」では主役の万城目淳………、特撮街道をひた向きに歩かれ、そのキャリアは55年、今も尚元気で新作に出演を続けられている。そんな佐原さんと酒を酌み交わし、その夜は当時の話をたっぷりと聞かせて頂いた。東宝に入社した頃の話、ゴジラへの想い、「ウルトラシリーズ」の裏話………、差し向かいでこんな話が聞けるなんて、本当に夢のようである。

「252」の最初のプロットを書いた時、崩落したトンネルの中に閉じ込められる老夫婦がいた。僕はその夫を佐原さんのイメージで書いた。何度か設定の変更を繰り返す内にその老夫婦はいなくなってしまったのだが………、もしその役が固まっていれば、僕はプロデューサーに佐原さんの名前を出すつもりだった。いや、佐藤Pには一度そういう話をしたかもしれない。
憧れの人と仕事をご一緒する事は全然諦めていない。念じていれば何かの折には必ず実現するものだ。佐原さん、どうかいつまでもお元気で。必ずお声を掛けに参ります!

「素晴らしき特撮人生」 佐原健二著 小学館
ご本人の人となりがとても表れている本です。そして特撮の事が、想いがよく伝わってきます。
皆さん、是非ご一読を!

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2009/11/4 水曜日

『試写会の後で』

小森陽一日記 13:36:32

今週も色んな事があった。3D映画の撮影でレベル5の皆さんに会ったり、刑事さん達とお話したり、雨の中で芋掘りをしたり………、盛り沢山な週だった。
そんな中、「なくもんか」のキャンペーンで水田監督と阿部サダヲさんが来福。監督から家族共々招待を受けて作品を鑑賞した。その後僕は監督や阿部さんと合流、屋台でしこたま話しをした訳だが………、監督は僕が映画を見終わった直後の第一声が「面白かった!」じゃなかったと言ってむくれた。もちろん面白くない訳がない。監督と阿部さんと宮藤さんが組んでいるんだから。「面白かった!」と最初に言わなかったのには訳がある。以前、「人の作品を面白かったのたった一言で済ませるな!」と監督に言われた事があった。面白い――それが実に単純で簡単で物書きにあるまじき一言に思えたんだろう。だから今回は「面白かった!」という言葉を封印し、色んな言葉で「面白かった!」という事実を伝えようとした訳だが………、結果はこれだ。水田監督という人は、鋭さと真面目さと緩さといい加減さが実に不思議な具合にブレンドされている。へそ曲がりで偏屈だと思いきや、物凄い思いやりと気配りにこっちが恐縮してしまう事も度々だ。一言で言うと大変な存在、そして、これからも一緒に作品を作って行こうと思っているかけがえのない大切な存在なのである。

そしてもう一人、阿部サダヲさんだ。以前、一緒にご飯を食べて以来、僕は一発で阿部さんにやられた。一緒に仕事がしたくて仕方がない。阿部さんと会うと誰もがそういう気持ちになるんじゃないかな、ほんとに素敵なオーラを持っていて、妙に可愛らしくて、自然体でほのぼのしていて………。ここは水田監督と完全に一致する。今はもう休む間もないくらいの超売れっ子俳優な訳だが、それでも仕事を作り出して一緒に作品を作りたい。こんな想いの人が沢山いるからますます阿部さんの休みが減っていくんだろうけど………。

その昔、渥美清主演の連続ドラマ「泣いてたまるか」という作品があった。渥美さんが毎回違った役柄を演じ、監督、脚本も違う。ガードマンの話とかタクシーの運転手とかSFチックなシチュエーションもあって実にバラエティに富んでいた。今、「泣いてたまるか」をリメイクするなら主演は絶対阿部さんしかいない。阿部さんならどんな役柄でも歯を食い縛って頑張る男、泣いてたまるかと呟く強がりの男を見事に演じ切れるだろう。新作、「なくもんか」を観ながらそんな事を考えていた。ほんとに稀有な演者だと思う。阿部さん、近々に会ってご飯食べながら、面白い仕事の話、いっぱいしましょう!

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2009/10/27 火曜日

『一年振りのビッグサイト』

小森陽一日記 16:16:14

先週、東京ビッグサイトで行なわれた危機管理産業展に足を運んだ。思えば去年はこの展覧会にて、海保のトッキューと東消のハイパーとにご一緒させて頂いた。あれからもう一年………、月日の経つのは早いものである。

今回は連載している「S」と、まだ詳しくは打ち明けられない映画の為、テロ対策特殊装備展と警視庁警備犬の展示訓練をどうしても見たかった。見たかったなどという言い方になるは理由がある。テロ対策特殊装備展は一般人がほいほいと気軽に入れる場所じゃないのだ。ブースも別の場所、入る時は身分証明書の提示と空港並みのセキュリティチェックがある。要するに一般人お断りの場所な訳である。そこで去年お世話になった展覧会のディレクターであるYさんにメールを送った。すると直ちに電話が掛かって来た。
「「S」、もちろん読んでますよ!」
そんな嬉しい言葉と同時に、特殊装備展に入れるようパスを出して貰える事になった。(なんと僕と担当Kくん、マンガ家の藤堂くんはVIPパスだった………!)ほんとに嬉しい限りである。Yさん、ありがとうございました!
―――残念ながら特殊装備展の事はここに詳しく書けない。ただ、世界の最前線は今やここまで来ているのかと愕然とする想いを持った事だけは付け加えておきたい。

もうひとつの目的である警視庁警備犬の展示訓練。先日、国際緊急援助隊としてスマトラから戻ったばかりの山川さんが率いている。服従訓練からスタートし、臭気選別や捜索救助訓練と難なくこなしていく警備犬。まさに日頃の訓練の賜物だ。まったく素晴らしい人と犬の調和だと思う。そんな犬がひとたび首輪を変えると、今度は犯人に猛然と吠え付き果敢に立ち向かっていく犬に変る。同じ犬が人を助けもすれば人を襲う犬にもなるのだ。警備犬の凄さはここにある。襲撃訓練はやはり見ていて迫力があった。ジャーマンシェパードにひきずられる犯人役のハンドラーさん、噛まれる場所を間違えると何十針も縫う事になる。実際凄まじい縫い後を持つハンドラーさんを数人見た。物凄い………。ほんとにご苦労様です………。

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警視庁広報課にてしばし談笑した後、新宿で山川さんと合流。スマトラはもちろんまたまた色んな話を聞かせて頂いた。これが血肉となって物語に現れて行く事になる。マッシュは残念な結果になりましたが、またいつか必ずご一緒致しましょう!

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そうそう、訓練繋がりでもうひとつ話題を。我が家の愛犬マイも日曜日にJKCの家庭犬競技会に出場した。今回は惜しくも3席までには入らなかったが、訓練士さんと一緒に懸命に動いて頑張っていた。そんなマイを見ていると、なんとも言えない温かい気持ちになって来る………。人と犬って理屈抜きにいいもんだなぁと思えた、そんな1週間だった。

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