『母なる海』
広島は尾道にある「しまなみ交流館」にて、トークショーに出演して来た。タイトルは「海と生きる」。生まれてこの方海と生きた事などない自分が、海と生きるというお題目で何を語ればいいのやら……。まぁいい。得意の出たとこ勝負だ。
トークショーの壇上に上がったのは僕の他にあと二人、一人は実に懐かしい顔だった。「トッキュー!!」、「我が名は海師」を連載中にさんざんお世話になった海保の森さん。元トッキューであり、出会った頃は広報室勤務であり、僕の作品の事が作者の僕よりも詳しいという筋金入りのファンである。森さんが北海道に異動になって以来だから4年~5年振り、「懐かしいですねぇ」と語り掛ける僕に返って来た言葉は、「小森さんのブログは毎週チェックしてるから、あまり懐かしい感じはしないです」って……。いやはや、お見それいたしました。
もう一人はシドニー五輪のメダリスト、競泳の中村真衣さん。あの、ラスト10mのデッドヒートの末、惜しくも銀メダルになった試合……今も記憶に鮮明に焼き付いている。あの時の逞しい(失礼な話しだが……)肩幅と背中が強烈過ぎて、楽屋に挨拶にお見えになった時、一瞬誰だか分からなかった。あの時とはまったく違う、スラリとした笑顔がとても素敵なチャーミングなひと女性に変身されてたからね。
そんな三人でのトークショーが始まった。森さんと中村さんは共に海(水)に生き、そこで様々な努力を続け、今も海(水)に関わり続けている。僕はと言うとたまたま海とチラリと関わったに過ぎない。なんの努力もしていない。完璧な蚊帳の外だ。そんな男が誰もが感心する海とのエピソードなど話せる訳がない。だから、正直に言いました。
「僕は海がキライです。船もキライです」
場内シーン、そして失笑。司会者も中村さんも目がテン……。
「そんな人がどうして海の話を書かれたんですか……?」
え――、そんな人、だからです!
海(水)が好きだったら僕自身海上保安官になってたかも知れないし、競泳でオリンピック目指してたかもしれない。でも、そうはならなかった。だから、海を客観的に見れた。これは事実そうだと思う。海(水)に直接関わる事で大事を成した二人、僕は間接的に関わる事で作品を生み出した。そういう役割なんだと思う。
壇上から下りようとしたら森さんが客席に声を掛けた。若者が立ち上がってこちらに向かって歩いて来る。聞けば新人海上保安官で、海保を目指したのは「トッキュー!!」を読んだからだと言う。しかも、一日で全巻を読破し、「なろう」と決めたのだそうだ。
会場の外ではお父さんと息子さんに挨拶された。「海猿」も「トッキュー!!」も何度繰り返し読んだか分からないと言われた。そして今、海保を目指していると……。
嬉しい。でも、正直ちょっと気が重いのもある。誰かの人生に影響を与えたなんてね……。いい加減に生きれないですよ、やっぱり。ちゃんとしなきゃなって思う。そしてこれからも、この人の作品、読んで良かったって思われるようにしたいね。
海(水)から始まった出会いは今や陸に空にと縦横に広がっている。まさに母なる海、豊穣の海だ。海よありがとう。感謝しつつ前に進もう。
追記
ようやく九州北部も梅雨が明けた。――途端、コレやってます。今週末はもうワンフェスだ。またキットが増えるなぁ……。