2012/7/3 火曜日

『立派におじさん』

小森陽一日記 10:58:52

こんなにさらさらの長い黒髪が似合う人を他に知らない。昔、僕がウルトラのガレージキット展をやった時に知り合ったKさんは、アートディレクターとして様々なイベントの企画に携わっていた。今は関東にある某有名美術館の学芸員だ。今回は彼氏連れにての凱旋。約二年振りの再会だったが、やはりさらさら長い黒髪は健在で、ちっとも歳を取ったようには感じなかった。

歳、と言えば―――、

こんな本がある。タイトルは「おじさん図鑑」、テレビや新聞で取り上げられているからご存知の方も多いだろう。著者であるなかむらるみさんが街にいるおじさんを観察し、模写し、分類している。これだけ真摯におじさんについて書かれた本は他にはない。

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この本、読むと……はまる。「いるいる」と思わずほくそ笑んでしまう。そして、ついつい自分はどのタイプか探してしまう。最近、本屋さんでふと気が付くと後で手を組んでしまっている自分、脂っこいものが好きな割には量が入らなくなってきた自分、ヒゲやもみあげが随分白くなって来た自分がいる……。

おじさんと言えば代名詞はこの人だろう。ジャック・タチ。タイトルもスバリ、「僕の伯父さん」は今でも時々見返すほど大好きな映画だ。ここに出て来る伯父さんの出で立ちは、帽子とパイプとこうもり傘とトレンチコート。この格好をすれば誰もがたちどころにおじさんに早変わり出来るベストアイテムである。しかし、同時にこの伯父さんはどこかモダンな感じがした。ちょっと美味しそうなワインを知っていてそうで、小奇麗なレストランのシェフと顔馴染みでいてそうで、素敵な景色が味わえる散歩コースを知っていてそうな感じがした。これは若い男には中々真似出来ない味だ。

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このジャック・タチが脚本を書いた「イリュージョニスト」もそんな伯父さんが主人公だった。三流のマジシャンでお金も名声も無いのだが、どこかモダンな感じを漂わせていた。人生のこだわりと同時にとっておきの何かを知っていそうな感じがしたものだ。

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あぁ、僕もそんなおじさんになりたい。成りは立派なおじさんなのだが、まだまだ深みが足りない。全然足りない。今だ迷う事の多い四十半ばのおじさんである。

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