『似て非なるもの』
「SPEC」と「外事警察」、どちらも巷を騒がす人気作品である。共通しているのはこれまであまり陽の当たらなかった警察の、公安部を描いた作品だと言う事。だがこの両者、ものは全く違う。舞台の呼び名が同じというだけの、完全に似て非なるものなのだ。しかし、僕の中で優劣はつけようがない。どちらも傑作的に面白かった。今風に言えば「大はまり」した。方や警察モノと言う名の奇妙キテレツなファンタジー、方やドキュメンタリーかと見紛うほどの異様な創り込みの世界、ドラマから映画になるのもすこぶる頷ける。「S」を表現する上でこのニ作品は間違いなく血となり肉となる。特にキャラクターの峻烈さはおいしい。左手は三角巾で吊られ、右手はゴロゴロと赤いキャリーバッグを引き摺り、「バカウマ!」と餃子を食いまくる女刑事当麻紗綾。己の信念の為なら仲間だろうが民間の協力者だろうが、どんな危険な状況でも追い込んで行く、「公安の生んだ魔物」と称される住本健司。もちろん戸田恵梨香がいてこそ、渡部篤郎だからこそより輝いたのは間違いない。だが、役者は「シロ」だ。そこにどんな色を付けるかは裏にいる者の手に掛かっている。どちらも素晴らしい色付けだった。それも含めてますます貪欲に飲み込んでいきたい。
さて、折角なので久し振りに映画評など綴ってみたい。古いものから新しいものまで雑多色々ではあるが、お時間のある方はどうぞご覧あれ。
『人 狼』
原作・脚本 押井 守 監督 沖浦 啓之
「S」の匂いがぷんぷんする。戦後の雑多な時代が舞台という設定、公安と警備を足したような「首都警」という治安部隊の設定、赤ずきんをベースにした物語設定、全て気に入っている。
『バンデットQ』
監督・脚本・製作 テリー・ギリアム
1981年製作だから随分古い。でも、今観ても古さを感じない。鬼才と称されるテリー・ギリアムの作品の中でも僕が最も好きな作品。「オ・ラ・イ・ナ・エ」、あの唄、耳に残る。
『マネーボール』
原作 マイケル・ルイス 監督 ベネット・ミラー
野球が好きじゃなくても一人の人間の生き様を十分に味わえる。野球が好きな人なら野球人達の生き様を味わえる。今年のホークスにとって必要なのはビリー・ビーンとピーター・ブランドの発想力、決断力、そして実行力だと思う。
『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』
原作 エルジェ 監督・製作 スティーブン・スピルバーグ
僕にはあまり馴染みがなかったが、世界中に知られたキャラクターの映画化である。映像は凄い。びっくりするくらい。時に気持ち悪く感じるくらいリアルなCGアニメだ。しかし、肝心のストーリーがなぁ……。
『ベルセルク 黄金時代編Ⅰ 覇王の卵』
原作 三浦 建太郎 監督 窪岡 俊之
もちろん原作は全て読んでいる。今も尚、次巻の発売を首を長くして待つ身だ。だからこそ有り体に言わせてもらうが――かなり楽しめた。特にオープニングと不死のゾッドとの死闘の場面はグッと来た。
『ゾディアック』
原作 ロバート・グレイスミス 監督 デビッド・フィンチャー
実にフィンチャーらしい映画。この人、ほんとにこんな世界が好きだよなぁ。「セブン」しかり、「ドラゴンタトゥーの女」しかり。これも連続殺人鬼を追う謎解きミステリーもの、しかも実話。観ていてあんまり楽しめなかったし、退屈な印象さえした。
『ミスト』
原作 スティーブン・キング 監督・脚本 フランク・ダラボン
「ショーシャンクの空に」、「グリーン・マイル」に続くキング&ダラボンコンビ三本目。前二作は観終わった後になんとも言えない幸福感が湧いたが、これはない。ある日突然こんな世界になったら自分はどうなるんだろう。蜘蛛嫌いだしなぁ……。げっそりする映画、ダイエットにお薦め。
『アイアン・ジャイアント』
原案・監督 ブラッド・バード
全編セル画の作品。CGバリバリのピクサーアニメを見慣れた人には違和感があるかもしれない。しかし、物語はシンプルで力強く、そして切ない。「鉄腕アトム」や「ジャイアント・ロボ」の最終回を思い出さずにはいられない。
まだまだ観たい作品が山ほどある。留まってはいられないな。