『冬の御伽噺』
プロットを書いてから丸二年、昨年秋から取っ組み合っている小説がいよいよ大詰めを迎えている。苦しい。辛い。ちっとも楽しくなんかない! 鏡に写った自分の顔を見ると、覇気がなくて淀んでいる。髪はざんばら、無精髭、おまけに目の下はくまだらけ。これじゃまるっきり落ち武者だ……。いかんいかん、こんな時は魂のビタミン、冨田勲のミュージックを奏でて元気中枢を刺激しよう! ちなみにマイ・フェィバリット・イサオ・ミュージックは「キャプテンウルトラ」、「マイティジャック」、「ジャングル大帝」、大河ドラマの「勝海舟」です!!
そんないけてない三文文士が先日車を買った。いやいや、金があるなんて間違っちゃいけない。こう見えても新車なんか買うのは初めてだ。七年乗ってた車も少々調子を崩し気味、「そろそろ車を買い替えたい」という嫁さんの声と睨みに負けて仕方なく、あくまでも仕方なく買ったのだ。
これまでありがとうというお礼を込めて乗っていた車を磨いた。掃除機を持ち込み、車内も綺麗に掃除した。しかし、いざディーラーさんに行こうとエンジンを捻ったら、うんともすんとも掛からない。バッテリーが上がったのだ。仕方なくディーラーさんに電話、新車を届けて貰う事になった。
やって来た二人の方に「すみません」と頭を下げて事の次第を説明すると、「いえいえよくある事ですから」と言われた。その返答を不思議に思っていると、こんな話をされた。新車が納入される時、古い車が故障して動かなくなったり、事故を起こしたりと、そう言うトラブルが起るのだそうだ。そう、まるで離れたくないとダダを捏ねるように……。ディーラーさんにとっては決して珍しい話ではないらしい。まるで都市伝説のような話に驚いた。
新車が届いてから三日間、福岡は大雪となった。我が家の周辺でも何年振りかで10cm以上の雪が積もった。急な坂道がいたるところにあるこの辺りでは、チェーン無しでは危険な状況になった。折角、気分転換に新車を転がそうと思ったのに……。その時、ハタと気が付いた。
「そうか……。これってもしかしたら前の車の仕業かも……」
大雪から一転、本日は快晴となった。が! 三文文士は今や気分転換どころの話ではなく、朝も昼も晩も机に向かわねばならない状況に陥っている。しばらくはドライブなんか出来そうにない。
「車よ、これもお前の仕業なのか!」
皆さんもこんな経験ってありますか? やはり車にも五分の魂があるようです。これまで足になってくれた事に感謝しつつ、時々姿形を想い出してあげましょう。
――って、なんか今回は御伽噺っぽくなったな。
それではまた来週。