『立ち戻る場所』
久し振りに北九州は門司港を訪れた。親戚がいる訳でも友人がいる訳でもないのだが、仕事に区切りが付くとなぜかここに立ち戻ってくる。門司港は僕の創作の原点なのだ。振り返ると色々な事がここから始っている―――。僕にとってはそういう場所なのだ。
S先輩に連れられてある人に会った。映画のパンフやポスターを数多く収集している松永さんという方だ。松永文庫と言えば分かる人も多いだろう。自宅に招かれ、自己紹介をすると、まず物凄い新聞記事のスクラップブックが目の前に積まれた。「箸」や「トイレ」や「芸能」とタイトルが付けられたそのスクラップブック、そこには半世紀以上の新聞記事やチラシや雑誌の切り抜きが溢れていた。もちろんそれだけじゃない。民俗学から風俗まで、ありとあらゆるジャンルの資料が家の中を埋め尽くしていた。資料の重みで家が潰れるんじゃないかと思えるほどだ。僕が呆気にとられていると、今度は六分儀が出て来た。六分儀とは天体の高度測定や自分の位置の割り出しに使われる航海計器である。
「なんでこんなものをお持ちなんですか?」と尋ねると、「妻も私も長く海難審判をやってましたから」と言われた。そして、「あなたの事はもちろん知っていますよ。スクラップもしてあります」って……。いやはや、驚いた。まさかここで有名な海事関係の方と繋がるなんて。まさにこれは縁である。
古くからある商店街に知り人を訪ねた。ほとんどがシャッターを閉めている中、目指す乾物屋はまだしっかりとそこにあった。顔を合わせるのは七年振りくらいになるのかな、お元気そうなNさんの様子にホッとし、近況を話しつつ「DOG×POLICE」の小説を渡した。すると――「そうそう、市原さん、つい先日、商店街の中を走る撮影をされてましたよ」って。間違いない、今月からスタートするドラマ「ランナウェイ」の撮影だ。隼人くんとは10月1日の初日に顔を合わせた。それを挟んでお互いこの狭い商店街に立っていたなんて……、これも実に奇遇な事である。立ち寄ったら必ず買う唐辛子入りのふりかけを買って店を後にした。
やっぱり磁場というか、この地にはなんか所縁があるんだろうな。そうでないと説明出来ない事が多すぎる。さて、さっぱりとリセットも出来た事だし、新たな創作物に向かおうかなっ、と!