『「はやぶさ」、お帰り。ほんとにご苦労様………』
「ただいま………」
大気圏突入時、あの強烈な輝きはまるで僕等にそう言っているようだった――――。
MUSES-C、「はやぶさ」が地球に帰って来た。2003年5月9日13時29分に鹿児島宇宙空間観測所から打ち上げられ、2010年6月13日22時51分(日本時間)、大気圏に突入して燃え尽きた。7年と35日間、60億kmという途方もない距離をたった一人で飛び続け、きちんと役目を果たして逝ってしまった。
そんな「はやぶさ」の姿に様々な想いを馳せた人も多かっただろう………。
事細かに追っていた訳ではない。だが、月よりも遥かに遠い小惑星「イトカワ」に行って、岩石試料を回収し、それを地球に持って帰って来る―――、そんな途方もないプロジェクトが立ち上げられ、実行され、様々なトラブルを抱えている事は時折入るニュースで知っていた。
実際のところ、不可能だと思っていた。打ち上げに連続して失敗し、日本の科学技術が信頼を失くし始めてた頃の話だったから。
「月にすら行った事がない日本が、小惑星の石を持ち帰るなんて出来っこない」
醒めた気持ちが最初からあった。
度重なるエンジンの不具合、燃料漏れ、軌道を外れて行方不明………、しかし、その度に「はやぶさ」はトラブルを乗り越えた。「はやぶさ」を信じ、ただひたすらサポートしてきたスタッフの想いは電波に乗って宇宙空間を飛び越え、幾度となく「はやぶさ」に届いた。機械と人、この間に結ばれた絆、僕はこの絆に強烈な感動を覚える………。
「はやぶさ」が燃え尽きる瞬間、最後の写真を撮った。それは地球の姿だった。失敗したコピーのように光が伸び、片側が潰れた写真、しかし僕はその写真を見た瞬間涙が溢れた………。たまらなく切なく、そして愛おしくなった………。
果たして回収されたカプセルの中に岩や砂粒は入ってるか?極論すれば僕はなくても構わないと思っている。「はやぶさ」はもう沢山のものを届けてくれた。それは「想い」であり、「絆」であり、「可能性」だ。「はやぶさ」からのプレゼントを受け取った者達はきっと宇宙に携わり、新たな可能性を押し広げて行く事になる。これこそ最高最大の功績に違いない。
「はやぶさ」お疲れ様。どうかゆっくりと休んで下さい――――。