『旅立ちに乾杯』
6月はジューンブライドの月、だが、今年の6月は別れの月だ………。
その人は山男だった。親父の部下で度々家にも遊びに来ていた。奥さんと一緒だった事もある。身長はお世辞にも高くはなかった。しかし、全身から気が漲り、子供心に「元気なあんちゃん」という印象だった。中学生の頃、ビデオカメラをその人から借り受け、映画を撮った。カメラとデッキがセパレートの時代、今思えば随分高いものだったと思う。だがその人は快く貸してくれた。そうして出来上がった作品は、僕の映画第1号となった。
………その人が先日亡くなった。心筋梗塞を起こしたという。まだ50代、エベレストまで登った山男が………、しばし絶句した。だが、亡くなった場所を聞いて「そうか」と思った。山だった。しかも人助けをしての末だったそうだ。あの人らしいな、そう思った。
彼女は頑張り屋さんだ。知り合って5年になるのか、驚くほど歳を取らない。いつまでも華やいで綺麗だ。そんな彼女が来月、福岡を離れる。寂しくないと言えば嘘になる。ピョンピョンと跳ねるように歩く独特の歩き方が見れなくなるのも残念だ。お世辞にも広いとは言えない事務所で、お茶を飲みながら世間話が出来なくなるのも………。でも、彼女ならやっていける、そんな確信がある。先日の送別会、ブルーに揃えた服、とても似合っていた。大丈夫、彼女なら立派にやっていける。
最初に会ったのは打ち合わせの席、友人の能楽師さんの講演会、僕がゲストで呼ばれ、彼女が司会だった。凛とした雰囲気、真っ直ぐな瞳、話をする時も笑う時も独特の間がある。いつも呼吸を入れて考える。「それってどういう事ですか?」何度彼女から質問を受けただろう。でもそれが決して嫌味にならない。素直さが溢れているから。そんな彼女からメールが来た。「このあたりで環境を変えてみようかな」、この感じ、彼女らしいと思った。きっと沢山考えての末だと思う。次は一体何をやるんだろう、何かを決めたらまた真っ直ぐに向って行くに違いない。きっとそうだ。
旅立ちに乾杯!俺はいつまでも、どこにいても、応援してるから。