2008/8/12 火曜日

『大好きな赤塚先生のこと』

小森陽一日記 17:19:15

厳粛な美術館、咳払い一つで睨みつけられるような張り詰めた空間………の中でそれは行われた。「赤塚不二夫展」。一歩足を踏み入れた瞬間、笑いが込み上げて来る。だってバカボンパパが、ニャロメが、レレレのおじさんが、イヤミがいる。その真ん中で一番悦に入って笑ってるオッサン、赤塚先生がいるんだから――――。

小学生の頃だ。8月、まだ熱気が抜けない夕方、ランニングシャツに短パンという出で立ちで、畳に寝転がって「天才バガボン」の単行本をむさぼるように読んだ。何時の間にか表紙はどこかに姿を消し、陽に焼けて黄ばみ、何度もめくった為にページには判を押したように指の後が付いていた。そんなボロボロの単行本を広げ、相変わらず同じところで笑う。
「これでいいのだ!」
眼を血走らせ、唾を飛ばし、豪快に鼻毛が揺れる劇画調のバカボンパパ。かと思えば福笑いのようにキャラクターの顔が崩れたり、「今回は左手で描きました」というコメントと共に恐ろしく下手な画が全編を彩る。面白ければなんでもあり、すべて「これでいいのだ!」で片付けてしまう強引さ。
『そうか………、これでいいのか………』
面白いと思った事、やりたいと思った事をどんどんやりなさい、僕は赤塚先生の作品でその事を教えられた。

赤塚先生とはついにお会いする事はなかった。でも、それでいいとも思っている。だって赤塚先生は僕にとって神様だから。神様とはそう簡単に会っちゃいけない。
いつか僕があの世に行ったら、自分の作った作品を抱えてご挨拶に行こうと思っている。その時の為に今は懸命に面白い作品を作ろうと思う。

最後に―――、タモリさんの弔辞は本当に素晴らしかった。
「赤塚先生、本当にお世話になりました。ありがとうございました。私もあなたの数多くの作品の一つです」
聞き終えた瞬間、とめどない涙が流れました………。海がとても大好きなタモリさんらしいとても潔く美しい言葉だった………。

合掌。

(C)CopyRight Yoichi Komori All rights reserved.