『最終段階』
いよいよ我が愛犬マイの服従訓練も最終段階に入って来た。
「すわれ」の停座、「ふせ」の伏臥、「あとへ」の脚側行進、「まて」「よーしこい」の招呼の他、紐やボールを使った訓練など見違えるほど機敏に反応し、訓練士さんの命令通りに動く。その姿は実に誇らしく見える。そして、どんな犬よりも凛々しく見える。
さて、命令を理解する賢い犬となったマイに対し、目下の問題は人間の方である………。休みの度、家族一同訓練所に通い、訓練士さんの後を受けて懸命に服従訓練を行っているのだが、掛け声の言い間違いはしょっちゅう、足を踏んだり、尻尾を踏んだり、挙句にリードを引っ張り過ぎて首を絞めたりともう散々である………。いや、散々なのはむしろマイの方で、「何、訳の分からん事を言いいよると?」ときっと内心怒っているだろう。それでも文句一つ言わず、懸命にこちらの動きを見つめ、指示に合わせて動いてくれる。なんとも健気な犬である………。
先日の日曜日も訓練に訪れた。「じゃあやりましょうか」と訓練士さんに声をかけられると、あまり物事に動じないこの僕がさっと緊張する。最初は僕、続いて娘、最後に妻。何度もマイに声を掛けながら訓練をこなしていく――――。
その夜妻は早々にダウン、僕も夕食を食べずに寝た。なんだかとても疲れていた………。 よくよく考えてみれば当然である。今訓練をされているのはマイではない。飼い主である僕等の方なのだから………。