『絵描きさんの線』
いつも思う。絵描きさんの線ってどうしてあんなに生きてるのって。サラサラ描こうが熱心に描こうがガハハとしゃべりながら描こうが全部生きてる。紙に線を引いた瞬間に「あ、違う!」って思えるもんな。一体どうなってんだろう………。だから絵描きなんだけどさ――――。
存知の方も多いだろう。山口晃氏、古典的で日本画風でそれでいて現代っぽくて、有機的なのか無機的なのかさっぱり分からない不思議な世界を描き出す画家。何かのドキュメント番組で山口さんの画を見た瞬間、どっぷり惚れた。電気が走ったみたいな衝撃だった。「面白ろスゲェーっ!!!!」て………。それまでにあんな画、一度も見た事なかったもんな………。ほんとにビックリした。
画集に収録された画はルーペなしじゃ判別不能なくらいの緻密、細密、繊細の嵐。ほんとによくぞここまで描き込みましたというくらい事細かに描き込まれている。感動を通り越して呆れ帰ってしまうくらいの線なのだ。ところがどっこい、これがエッセー漫画となると一変する。実にテキトーな感じでサラサラポリポリと描いてある。自画像はともかく、奥様の顔なんか○顔に丸い目、髪は実にいい加減にペッペッとペンを走らせただけ。そりゃヒドイ。同じ人が描いたとは思えないほどのひどさだ。しかも僕は仕事柄、マンガのネームを山ほど読んでいる身である。まぁ山口さんの描いたコマ割の読み難い事といったらない。だが――――、やっぱり線は生きてるのだ。ほんとに活き活きしていて、気が付いたら山口夫妻の日常にどっぷりはまって大笑いをしている………。まったくなんて絵描きさんなのだろう………。ほんとに大好きな絵描きさんなのだ。
僕もこんな人達の真似をしてたまにペンを走らせる事がある。こういう事するのは旅先が多い。先だってのクウェート・エジプト旅行でも手帳にボールペンで沢山画を書いた。見返すと無駄な線ばかりで心の迷いが透けて見える………。40歳にして迷わずじゃなかったのか?だが、こういう事は隠していても上達しない。だから恥を忍んで蔵出ししようと思う。いつの日か、生きてる線を描きたいからね。