『生について』
「ハート・ロッカー」を観た。2004年イラクの夏を舞台にした、アメリカ陸軍爆発物処理班の物語である。穴凹だらけの路上、強い日差しの下風に煽られて砂塵とゴミが舞い、イラク人が家の窓や柱の影から冷たい視線を投げ掛ける………。そんな中、毎日毎日、ただ淡々と爆発物処理班は爆弾を解体し続ける。ゴミの中、瓦礫の隙間、土の中、自動車のトランク、子供の死体の腹の中、生きた人間………、いたるところに爆弾があり、爆発したら確実に死が訪れるという最中、今日も彼等は淡々と爆弾を解体する………。
生あるものには必ず死が訪れる。そして死はいつ訪れるか予想はつかない。何十年も先かもしれないし、30分後かもしれない。誰にも分からない。しかし、爆発物処理班は違う。死が予測出来る。解体に失敗すれば即、「死」………なのだ。確かに英雄的な行為なのかもしれない。しかし、どこか淀んだ目をして、酒を飲み、タバコを吹かし、同僚と殴り合いをしてヘラヘラ笑う主人公を僕は好きになれなかった。映画を観ている間中、ずっと心がザラザラしていた………。先日こんな本を買った。「超訳 ニーチェの言葉」、ドイツの哲学者ヴィルヘルム・ニーチェの簡潔な言葉が並んでいる。その中にこんな一文がある。
少しの悔いもない生き方を
今のこの人生を、もう一度そっくりそのままくり返してもかまわないという生き方をしてみよ。
???? 「ツァラトゥストラはかく語りき」
第82回アカデミー賞、作品賞、監督賞、脚本賞などなど主要な賞を総なめにしたこの「ハート・ロッカー」、同じく主部門でノミネートされていた「アバター」はそのほとんどを「ハート・ロッカー」にさらわれた。アカデミーのSF嫌いは今に始まった事ではないので驚く事は何もなかったが、出来れば作品賞は「アバター」に獲って欲しかった。「アバター」は物語だ。しかも純粋な「生」の物語。人間の想像力を駆使して出来上がった最新の映像で、太古の昔から存在する純愛を描いた物語、僕は圧倒的にこっちが好きだ。