『出せ!入れろ!また出せ!』
妙なサブタイトルとなってしまったが、何も大人の話題をしようというのではない。
ここ2週間ほど、憑かれたような日々を過ごしている。本を読み、音楽を聴き、映画を観て、ゲームをしまくり、人と話す―――。そこにはジャンルも何もない。もはや手当たり次第、片っ端からという感じである。例えるなら、乾き切った喉を潤すのに似ている………。
創作活動とは即ち出す行為だ。自分の内なるものをカタチにして出す。蓄積し、発酵したものが己の中を通って出て行く。やがて一つの作品を作り上げると、相当量のものが出る。だから入れる。色んなものを片っ端から詰め込む。そして、その時が来るまで熟成させるのだ。だが、溜め込むばかりではやがてパンパンになって何も入って来なくなる。溜め込んだものに満足して流れを止めると、淀む。淀みからは決して何も生まれない………。
偉そうな事を書いたが、これらはすべて先輩であるSプロデューサーの受け売りだ。20代の頃、溜め込むだけ溜め込んでそれで満足していた時に、スパッと喝を入れられた。
「まず出せ!全部吐き出せ!そこから始めろ」
最初はなんの事だかさっぱりわからなかった。そして言い渡された事、このCMのキャッチコピーを1,000通り考えろというもの………。
「1,000通り、ですか………?」
一瞬呆然とした。だが、すぐにやり出した。自分ならやれると思ったし、見返してやろうという気持ちで机に向った。100、200、スラスラ書けた。500、まだ余裕があった。紙の束が積み上げられて行く。700、800………、苦しくなった。書いたものを何度も見返しては、フレーズの少し違ったものを書いた。それでも900を超すと何も浮かばなくなった。頭がスカスカで言葉が引っ掛からない。最後は図形を描いた。本当にもう何も想像出来なくなっていた………。現れたSプロデューサーに、
「もう何も浮かびません………」
と頭を下げた。するとSプロデューサーはおもむろにゴミ箱をひっくり返し、中から紙の束を取り出してめくり始めた。その紙の束はラスト100、何も浮かばなくなって苦し紛れに書いた落書きのようなものである。やがてそこから一枚を取り出してこう言った。
「ここにある」
と――――。
食べる。それが血となり肉となって大きくなる。残りは出す。そしてまた食べる。誰しもが、すべての生物が日々等しくやっている事。当たり前の事。それ以後、このイメージは自分の背骨となった。今あるのもこのイメージと、それを教えてくれたSプロデューサーのおかげだと思っている。