『引越し』
家具を運び出しガランとした部屋で掃除機をかける。大きな綿ぼこりに驚き、タンスの裏から出て来たモノに驚き、床についた傷におののく………。やがて何もなくなると、そこはもう住み慣れた部屋とは違ってただのだだっ広い空間となる。
これまで何度か引越しを重ねて来た。短かった部屋もあれば長かった部屋もある。この部屋は6年半住んだ。いい事も悪い事も楽しい事も哀しい事も色々あった。四季折々を窓から眺め、色んな人を出迎え、何千回というご飯をここで食べた。そして何より娘がここで成長した。
「柱の傷は一昨年の~」
娘の背がどれくらい伸びたか、壁にはエンピツで線を引いた跡が残っている。それを見た時、なんとも言えず切ない気持ちになった………。
新居はダンボールで埋もれている。
とにかくこの山を崩していかないと生活が始まらない。時間は流れている。また前に進むだけだ―――。