『スピリッツの(ある?)男』
来福した「海師」の担当Kくんと打ち合わせ(もちろん呑みも兼ねる)をした。僕の仕事場で1時間半ほど。もちろん次週からの展開が一番のお題目なんだが、それは10分くらいで済んだ。後は互いの近況報告や気になる映画や本などの話だ。
「エーッ!?打ち合わせってそんなもんなの!!」
と思われる方がいるかもしれない。そう、打ち合わせとはそんなものだ。ただ、そんなものになる為にはそれなりの時間が掛かる―――。
一番最初に書いたプロットのタイトルは「(有)唐島サルベージ」。
数年前、沈船から莫大な財宝を発見したサルベージ屋の唐島武と沢村広。一躍時の人となるも金はすべて使い果たし、今や借金抱えて食うにも困っている。しかし夢よもう一度、コツコツ働くよりデッカク一旗上げてやると相変わらず人生バクチの日々。そんな若者2人と行動を共にするのがお爺の船越と飯炊きババァのお米。当初は曲者連中が巻き起こす海難騒動を描いた物語だった。前任者の担当M山くんと2人、角つき合わせて物語を煮詰めていった結果、やがてもっと硬派な方へと変遷を辿って行く。
M山くんの異動を受けて、後任となったのがKくんだった。鋭い目つき、大阪弁、服や時計、小物に至るまで竜が付いており、頭はメッシュ。
「この男はホントに編集者なのか???」
と最初は大いに疑った。だがそんなKくん、見かけによらず思いやりのある男だった。
「いい奴だな………」
そう思った途端、作家とは頑張る生き物だ。彼の目指すビジョンを聞き、「海師」を何度も手直ししていった。やがて描き手に武村くんが決まり、皆さんご存知の「海師」が誕生する。
電話で話をし、会って話しをし、一緒にいろんなところへ取材に行った。暑い日も寒い日も、大嵐の日もあった。そんな様々な積み重ねを経た結果が10分の打ち合わせなのだ。そしてたった10分の為に、Kくんはわざわざ福岡にやって来る。
だが………、
「ちゃいますよ!小森さんがいなくても福岡来ますよ。うまいしおもろいし」
「………」
打ち合わせを10分で「終える」のではなく、実は「終わらせている」のかもしれない………。
『気をつけよう。甘い言葉の編集者』
連載100回を迎えた時、武村くんから色紙が贈られてきた。これは大切な宝物だ。