9月がやってきた。夏休みが終わった。ついにというかやっとというか………。一ヶ月半、嵐のような子供天国はようやく終わりを告げたのである―――。
思えば今年の夏休みはラジオ体操で始まった。娘の夜更かし癖を治す為に、一念発起してラジオ体操へ行く決心をしたのだ。7月は晴れ、晴れ、晴れの連発。雨で中止になる日は一日とてなかった。そんな中、実家に泊まりに行った際もラジオ体操へ向う。まさに悪夢再び――である(しかし、今はもう実家の敷地でラジオ体操は開かれておらず、近所の神社にその舞台を移していた)。
8月に突入するとますますイベントは目白押し、花火大会、能古島キャンプ、映画に花火に食事会にと子供天国に拍車が掛かる。僕は打合せと取材旅行と飲み会でフラフラになりながらも、娘と共にラジオ体操には欠かさずに行った。だが、それが途切れる日がやって来た。その日は東京へ向う飛行機の都合で、どうしてもラジオ体操へ出れなかった。
「すみません、ラジオ体操に出たいんで取材のスタート、遅らせてもらえませんか?」
言えん………。そんな事、言える訳がない。悔しかったが僕にはついに黒星が付いた………。
夏休みも残す所半分になった頃、巷で娘の皆勤賞がウワサされ始めた。本人もその事を次第に意識し始め、どんなに眠くても自発的にゴソゴソとベッドから這い出すようになった。カードが判子で埋め尽くされて行く。後幾つで皆勤賞、判子の押されていない白い部分を指折り数える日々。そして8月最終週、2泊3日、阿蘇山へ家族で旅行する時がやって来た。
「皆勤賞もらうにはどうすればいいと?」
「阿蘇山に行ってもラジオ体操ばして来たら、おじちゃんが判子ば上げる」
出発の朝、ラジオ体操を終えて、何時の間にか子供会の人とそんな約束を交わした娘、意気揚々と阿蘇へ向ったのだった――――。
家族旅行とは名ばかりである。
娘の大好きな阿蘇山ファームランドに宿泊し、娘が見たがっていた「パンくんとジェームス」に会いにカドリー・ドミニオンに行き、娘のお気に入りの場所である元気の森で遊び、阿蘇お猿の里で娘の喜ぶ猿回しを観て、娘のベストオブ遊園地、三井グリーンランドでしこたま遊んだ。気温は連日30度以上、日差しは容赦なく降り注ぐ。妻は「日焼けしたくない」と日陰に逃げ込み、僕も「キツイ、疲れた」を連発しながら少しでも涼しい場所を探す。しかし娘に容赦なく狩り出され、再び炎天下へと逆戻り。日々、屋内で過ごしている者にとって、これは紛れもない拷問である………。
ファームビレッジの中、すやすやと心地よい寝息が聞える―――。
あれだけ遊んで起きれる筈がない。午前9時起床、ついにこの瞬間、娘のラジオ体操皆勤賞への夢は途切れたのである。
――だが奇跡は起こった。ファームランドにある元気の森、ここのスピーカーからは耳慣れた曲がエンドレスで流れていたのだ………。
「嘘みたい………」
狐につままれたような気分のまま、僕は娘と一緒にラジオ体操をこなした。そして翌朝、熊本は晴れ。福岡は雨。ラジオ体操は中止となり、神懸りな展開で連続記録は守られたのだった………。
8月最後の金曜日、娘は皆勤賞という事でお菓子とトランプとバトミントンセットを手にした。実に得意気な顔で。僕はと言えば何もなし。たった一日、仕事の都合で行けなかっただけなのに………。
「パパは一日お休みしたから皆勤賞じゃないよ。来年頑張ってね」
無理………。
※「パンくんとジェームス」 天才!志村どうぶつ園で大人気のチンパンジーとブルドックのコンビ。阿蘇カドリー・ドミニオンに行けば会えます。