2012/6/26 火曜日

『雨続きのこんな日には……』

小森陽一日記 10:06:15

立て続けの台風と活発な梅雨前線の為に、日本列島はここんとこずっと雨続き……。僕の住む北部九州も、梅雨の一言で済ますにはちょっとと言うほど連日の豪雨となっている。窓が水滴で霞むくらいの激しい雨。洗濯ものはもちろん外に干せず、マイも大好きな散歩に行けない。実につまらなさそうな顔をして鉛色の空を見上げている。

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よし、雨続きのこんな日にはアレをやろう。ちょいと前に買って来て中々進められずにいたテレビゲーム、「ドラゴンズ・ドグマ」だ。たまたま雑誌とテレビで紹介されていたのを見て、グッと心を掴まれた。何と言ってもオープンフィールドの美しさがいい。道を外れてどこまでもブラブラと散策出来るのがいい。会話が全部英語だからヒアリングの勉強にもなるし!

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さてこのゲーム、自分の好みのキャラクターを頭のてっぺんから爪の先まで作り込める。まずは主人公の「覚者」、やっぱり猪突猛進のファイタータイプが好みだ。となると当然身体は大きく、髪は短め、立ち姿は前傾姿勢で口はへの字口……ってあれ、神御蔵一號になって来たぞ。こうなりゃとことん似せてやれ! という訳で名前もイチゴ、風貌もそっくりに作り上げた。

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「覚者」は仲間を数人連れて旅が出来る。基本は「ポーン」と呼ばれる不思議な人達を雇うのだが、無二のポーンだけは「覚者」と同じくキャラを作り込めるのだ。そうなりゃやっぱり彼だろう。という事で、弓を使った抜群の遠隔攻撃キャラ、イオリをこれまた似せて作り出す。折角撮ったキャラの写真がぼけてて、皆さんにきちんとお披露目出来ないのが残念……。自分では結構自信作です!
「藤堂くん、頂きました!!」

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いやぁ、久し振りにどっぷりやった。半日くらいコントローラー握ってたのっていつ以来だろう。これはこれで長雨の日のお楽しみ、いい気分転換だ。

2012/6/19 火曜日

『お勉強タイム』

小森陽一日記 11:31:51

人生とは日々勉強です。生きている間はずっと、人は何かを学び続ける生き物です。

先日はまた新たな場所に取材に行きました。山口県にある防府基地と福岡県にある芦屋基地。本日の来訪者にバーンと自分の名前が書かれているのを見て、思わず背筋が伸びました。防府ではプロペラ機のT-7を、芦屋ではジェットのT-4を間近で眺め、色んな説明を必死に受け止めようと頑張りました。基地内にあるコンビニで、目に飛び込んで来た「空のラーメン」を衝動買い。とんこつ味、しょうゆ味、味噌味の3チェンジモードと言う豪華さに、なんと戦闘機の写真入りというオマケ付き。とんこつ味を堪能しつつ、まさに離陸しようとするF-15の写真に魅入りました。

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翌日バタバタと上京し、編集部にて「S」の打ち合わせ。細部ではなく、大きな塊の話をする時には、やはり目と目を合わせてやるのが一番なのです。それもまた長年の経験で学んだ事です。白熱した打ち合わせはやがて寿司屋さんに場所を移し、夜が更けるまで延々と続いたのでした。(お寿司も美味かった。特にウニ)

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しかし、久しく忘れていたお勉強もあります。学校のお勉強。中二になった娘の宿題をチラチラ横目に見ていた時、愕然としました。さっぱり分からない……。かつてスラスラと解けていた筈の問題が、なんのこっちゃと言わんばかり全く理解出来ないのです。本当にショックでした。これは基礎からやりなおさんとイカンと中一の問題集を買って来て、空いた時間に取っ組み合っています。でも――解答を綴ったノートにはバツ印が目立ちます。悔しいです。何より堪らんのは後頭部の付け根がピキピキする事。数十年振りに動いたと思われる部位の脳みそが、錆び付いたようにピキピキと音を立てているのが分かります。

人生とは日々勉強。男45歳、只今学校のお勉強をおさらい中。

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2012/6/12 火曜日

『正解のない答え』

小森陽一日記 11:14:55

こんな記事を見つけた。見出しは「死刑囚の父へ「生きて償いを」。実父が実母を浴槽で溺死させた事件(その2年前には養父も事故に見せかけて殺害、多額の保険金を受け取っていた)。死刑囚の名は大山清隆、インタビューに答えたのは実子である大山寛人氏、24歳。

事件があったのは小学6年生の時、お母さんは誤って海に落ちたと教えられていたそうだ。だが真相は車の事故を装って岸壁から海へと沈められていた。事実を知ったのは中学2年生の時、父親が逮捕されてからの報道だったと言う……。それから寛人氏の人生は荒れ、高校は3日で辞め、あちこちを点々とし、風邪薬を600錠も飲んだとある。多分、自殺を考えていたんだろう……。

父親に死刑判決が出て初めて拘置所へ。最初はボロクソに言うつもりだったそうだが、直接事件の動機を聞くにつれて「一緒に生き、考え続けて欲しい」と思うようになった。二審では証人として出廷し死刑回避を訴えた―――。
寛人氏は言う。
「自分も家族を殺されたら相手を殺したいと思う。だから死刑反対とは言えない。正解はない。でも、遺族が望まない死刑って何なのでしょう」

大切な人を奪われた経験など僕にはない。だから、被害者の心境はどんなに思い巡らせても分からない。昨日起った大阪の通り魔事件、死刑になりたいからと言う理由で全く見ず知らずの人の命を奪った男。こんな奴は殺せばいいと思う。さっさと、すみやかに、確実に処分すればいいと本気で思う。異物は恐ろしい。何を考えているか、何をしでかすか分からないから。いつ、自分や自分の身内に刃を向けて来るかもしれないから。だから排除したい。本能的に振り切れた考えになる。年齢など無視して、何人殺したかなんて関係なく、直ちに死刑にして欲しい。

でも……被害者の言葉に時々ハッとする事がある。

「S」を書くきっかけの一つになったのも、ある被害者の言葉だった。子供の命を理不尽に奪った犯人を死刑にする事だけを考えて生きて来た両親、ついに犯人が死刑になった後、心の中にぽっかりと穴が開いた。この時初めて本当の意味での終身刑を考えるようになった――とあった。

犯人に望む事。
「生きて償いを」
この言葉が被害者から出る。その事実に僕は呆然とした。

寛人氏もこう述べている。
「共感は出来ないと思う。でもこういう意見がある事は知って欲しい」
小さくてか細くて消え入りそうな声。僕等はその声にもっと真摯に耳を傾けるべきだと思う。そして、本当の意味での絶対終身刑を考えて欲しい。被害者がその後、生きていく為に。死刑か終身刑か、それはただひたすらに被害者が生きていく為に選ばれるべきだと思う。

そして、その為には加害者を生きて捕まえなければならない。しかし、「S」を手に取った中には激しい拒否反応を示す人もいる。
「極悪犯を生かして掴まえるなんて有り得ない」
「こんな奴はさっさと殺せばいい。生きている価値などない」
「お前の作品など二度と読まない」
極悪犯などさっさと殺せばいい。それは分かる。僕もそう思う。だが、直接被害を被った人達の中にこんな意見があるのも事実なのだ。
「生きて償いを」
部外者ではなく被害者の思いこそ何よりも優先されるべきだと僕は考える。

「S」も沢山の矛盾を孕んでいる。まだまだ想いが、考えが、上手く伝わらない部分もある。それでもこの作品は諦めずに書き続けていきたい。苦しいけれど……。
きっとこの作品を手掛ける事になった理由がある筈だから。

※ 6日10日朝刊の朝日新聞社の記事より抜粋。 

追記
最後に少しほっとする日常を。
最近のマイ、昼間はウッドデッキの下がお気に入り。土に穴を掘って休んでいます。
犬って穴掘りが大好きなんだなぁ。
この顔見てると癒されます。

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2012/6/5 火曜日

『似て非なるもの』

小森陽一日記 10:57:40

「SPEC」と「外事警察」、どちらも巷を騒がす人気作品である。共通しているのはこれまであまり陽の当たらなかった警察の、公安部を描いた作品だと言う事。だがこの両者、ものは全く違う。舞台の呼び名が同じというだけの、完全に似て非なるものなのだ。しかし、僕の中で優劣はつけようがない。どちらも傑作的に面白かった。今風に言えば「大はまり」した。方や警察モノと言う名の奇妙キテレツなファンタジー、方やドキュメンタリーかと見紛うほどの異様な創り込みの世界、ドラマから映画になるのもすこぶる頷ける。「S」を表現する上でこのニ作品は間違いなく血となり肉となる。特にキャラクターの峻烈さはおいしい。左手は三角巾で吊られ、右手はゴロゴロと赤いキャリーバッグを引き摺り、「バカウマ!」と餃子を食いまくる女刑事当麻紗綾。己の信念の為なら仲間だろうが民間の協力者だろうが、どんな危険な状況でも追い込んで行く、「公安の生んだ魔物」と称される住本健司。もちろん戸田恵梨香がいてこそ、渡部篤郎だからこそより輝いたのは間違いない。だが、役者は「シロ」だ。そこにどんな色を付けるかは裏にいる者の手に掛かっている。どちらも素晴らしい色付けだった。それも含めてますます貪欲に飲み込んでいきたい。

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さて、折角なので久し振りに映画評など綴ってみたい。古いものから新しいものまで雑多色々ではあるが、お時間のある方はどうぞご覧あれ。

『人 狼』
原作・脚本 押井 守 監督 沖浦 啓之
「S」の匂いがぷんぷんする。戦後の雑多な時代が舞台という設定、公安と警備を足したような「首都警」という治安部隊の設定、赤ずきんをベースにした物語設定、全て気に入っている。

『バンデットQ』
監督・脚本・製作 テリー・ギリアム
1981年製作だから随分古い。でも、今観ても古さを感じない。鬼才と称されるテリー・ギリアムの作品の中でも僕が最も好きな作品。「オ・ラ・イ・ナ・エ」、あの唄、耳に残る。

『マネーボール』
原作 マイケル・ルイス 監督 ベネット・ミラー
野球が好きじゃなくても一人の人間の生き様を十分に味わえる。野球が好きな人なら野球人達の生き様を味わえる。今年のホークスにとって必要なのはビリー・ビーンとピーター・ブランドの発想力、決断力、そして実行力だと思う。

『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』
原作 エルジェ 監督・製作 スティーブン・スピルバーグ
僕にはあまり馴染みがなかったが、世界中に知られたキャラクターの映画化である。映像は凄い。びっくりするくらい。時に気持ち悪く感じるくらいリアルなCGアニメだ。しかし、肝心のストーリーがなぁ……。

『ベルセルク 黄金時代編Ⅰ 覇王の卵』
原作 三浦 建太郎 監督 窪岡 俊之
もちろん原作は全て読んでいる。今も尚、次巻の発売を首を長くして待つ身だ。だからこそ有り体に言わせてもらうが――かなり楽しめた。特にオープニングと不死のゾッドとの死闘の場面はグッと来た。

『ゾディアック』
原作 ロバート・グレイスミス 監督 デビッド・フィンチャー
実にフィンチャーらしい映画。この人、ほんとにこんな世界が好きだよなぁ。「セブン」しかり、「ドラゴンタトゥーの女」しかり。これも連続殺人鬼を追う謎解きミステリーもの、しかも実話。観ていてあんまり楽しめなかったし、退屈な印象さえした。

『ミスト』
原作 スティーブン・キング 監督・脚本 フランク・ダラボン
「ショーシャンクの空に」、「グリーン・マイル」に続くキング&ダラボンコンビ三本目。前二作は観終わった後になんとも言えない幸福感が湧いたが、これはない。ある日突然こんな世界になったら自分はどうなるんだろう。蜘蛛嫌いだしなぁ……。げっそりする映画、ダイエットにお薦め。

『アイアン・ジャイアント』
原案・監督 ブラッド・バード
全編セル画の作品。CGバリバリのピクサーアニメを見慣れた人には違和感があるかもしれない。しかし、物語はシンプルで力強く、そして切ない。「鉄腕アトム」や「ジャイアント・ロボ」の最終回を思い出さずにはいられない。
まだまだ観たい作品が山ほどある。留まってはいられないな。

2012/5/29 火曜日

『イルマ登場! それが君のタイミング』

小森陽一日記 12:04:55

ご存知ない方の為に簡単な解説を―――。
ビッグコミックに連載中の「S 最後の警官」、林イルマは現在店頭にある11号から登場した新キャラである。確かに新キャラではあるのだが、このイルマ、実は最初からいた。まだ神御蔵の名前が「勇太郎」だったり、蘇我の苗字が「高野」だったり、香椎の出身がSATではなくレンジャーだった頃から、何より僕の手書きノートの時点で既に彼女はいた。しかも、陸上自衛隊出身の狙撃手、林イルマとして。最初に考えたキャラ設定がまったくブレずに登場するのは、変遷を辿る僕の作品の中ではとても珍しい。

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林イルマにも関わらず登場がここまで遅れた。その理由は様々ある。だがやはり一番の理由を挙げるとなるとこれだろう。それは「S」という作品の境界線だ。「現実感」と「虚構」の境、どこまでリアルを追い求めるのか、どこからファンタジーでまとめるのか、その線引きをどこにするかという事に、当時は延々と頭を悩ませていた。

日本の特殊部隊に女性は存在しない。もちろん未来は分からない。だが、現時点ではいない。いないものを「いる」、として書いたらどうなるか? いないのだからもちろん不安定にはなる。しかし、ドキュメントではなくマンガなのだからそれもアリだろう。だが、それをする事によって、他の設定まで作り事に見られないか? そもそもNPSという存在自体が架空なのだ。そこに女性隊員を加えると、それこそ何もかもが絵空事に見えてはしまわないだろうか? だが、イルマがいる事でNPSのチームワークやキャラの個性に深みを持たせる事は出来る。女がいると男はカッコつけたり、とんがったり、優しくなったりうろたえたり、色んな表情を見せるからだ。
「だが……」
考えた末、「S」の世界観が浸透するまでは出さないと決めた。これは担当K、そして藤堂くんとも十分に相談した末に決めた事だ。

実はここ半年ほど、読者の皆さんから投げ掛けられる質問の中身が「変化している」と感じるようになった。最初は圧倒的多数で「あんな特殊部隊ってほんとにいるんですか?」というものだった。そもそも日本に特殊部隊が「いる」、という事を知らない人がこんなに大勢「いる」のだと知って愕然とした。特殊部隊の存在は知られて「いる」、という事からスタートした作品だったから、いきなり足元が掬われた感じになったものだ。それどころか現職の警察官から「もっともらしくウソを書くな」と厳しい言葉を投げられたのも一度や二度ではない。警察上層部がSATの存在をほとんど公にしてこなかったから、警察官ですら特殊部隊の事を知らないのだ。これには本当に頭を抱えた……。

しかし、月日が経つにつれて作品も、そして現実の世の中も変化した。この作品で描かれている事がどうやらまったくの嘘ではないらしい……と気付く人も増えて来た。「作者はほんとの事を知っていて、ワザと少しずらして書いている」なんて言う人も出て来た。ようやく「S」の世界観が浸透して来たんだと思った。予想以上に時間は掛かったが、土台はほぼ固まった。今度はその上に乗っているキャラクター達を更に磨き込もう。その為には眠っている彼女を起こすしかない。縁上編の最中、箱入り娘のイルマに世間の光を当てようと決めた。

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出番を待って貰っていた分、彼女には散々暴れて貰いたい。いや、もう僕の手を離れて勝手に暴れ始めている。藤堂くんとは実に呼吸がピッタリだ。その証拠に「描くのが楽しい!」なんてノロケている。
―――なんて事を書いていたら雑誌の取材依頼が来た。テーマは「覚悟」、だそうだ。まさに今の気分にピッタリである。という事ですんなり受ける事にした。

月末には7巻が発売される。「S」が大きく羽ばたく出来事を伝えられるのもそんなに遠い話じゃない。皆さん、その時を「覚悟」して待っていて下さい。

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