2012/7/31 火曜日

『全力!』

小森陽一日記 11:25:39

ロンドンオリンピックが開幕した。日本とロンドンの時差は9時間、LIVEはどうしても夜から真夜中になる。きっと寝不足の方も多いだろう。僕もそうだ。明日の事を考えて寝ないと……と思うけど、どうしてもテレビに向かってしまう。日本人選手のみならず、色々な国の選手達の競技に惹き付けられる。飛んで、掻いて、組んで、狙って―――。頂点を目指して全力で躍動する姿は本当に素晴らしい。

全力と言えば最近の空もまたそう。これでもかというくらい強烈な日差しが照り付ける。ゆらゆらと揺らめく青空に巨大な雲が膨らんでいく。暑さを我慢して眺めていると、雲がどんどん四肢を広げて発達する様が分かる。物凄い迫力だ。暑さは苦手だが、この雲を眺めるのは大好きだ。

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先日、庭の剪定をした。家を建てて初めての事だ。親子の庭師さんがやって来て、陽射しを浴びて全力で伸びた枝を容赦なく切り落としていく。「そんなに切らなくても……」と見ていてハラハラしたが、庭師さん曰く、来年にはまた延びていると太鼓判を押された。来年の夏が来る頃にはまた、枝葉を伸ばした緑の木々が空に向かって伸びている事だろう。

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かく言う娘も全力を出した。吹奏楽の地区大会を突破し、支部大会へと進んだ。残念ながらその上は行けなかったが、演奏はとても素晴らしかった。同じ曲を三度聞いたが、支部大会の演奏は一番キレがあったように思う。不覚にもジーン……としてしまった。なんか美味しいものでも食べさせて労ってやろうと思った。三年生になる来年はさらにもう一つ上を狙う目標が出来たようだ。全力で頑張って欲しい。

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僕はどうだろう。今、全力でやれているか? どうも最近、執筆の調子が出ない。上手く書いてやろう、よく見せてやろう、そんな邪まな思いが強過ぎて、自分自身が楽しめてないのが原因のようだ。その事をオリンピックや入道雲、庭の木々、そして娘が気付かせてくれた。もう一度リセットしてやり直す。これまでもそうして来たから。知らないうちにきっと無心の全力が生まれる。

2012/7/24 火曜日

『母なる海』

小森陽一日記 15:05:05

広島は尾道にある「しまなみ交流館」にて、トークショーに出演して来た。タイトルは「海と生きる」。生まれてこの方海と生きた事などない自分が、海と生きるというお題目で何を語ればいいのやら……。まぁいい。得意の出たとこ勝負だ。

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トークショーの壇上に上がったのは僕の他にあと二人、一人は実に懐かしい顔だった。「トッキュー!!」、「我が名は海師」を連載中にさんざんお世話になった海保の森さん。元トッキューであり、出会った頃は広報室勤務であり、僕の作品の事が作者の僕よりも詳しいという筋金入りのファンである。森さんが北海道に異動になって以来だから4年~5年振り、「懐かしいですねぇ」と語り掛ける僕に返って来た言葉は、「小森さんのブログは毎週チェックしてるから、あまり懐かしい感じはしないです」って……。いやはや、お見それいたしました。

もう一人はシドニー五輪のメダリスト、競泳の中村真衣さん。あの、ラスト10mのデッドヒートの末、惜しくも銀メダルになった試合……今も記憶に鮮明に焼き付いている。あの時の逞しい(失礼な話しだが……)肩幅と背中が強烈過ぎて、楽屋に挨拶にお見えになった時、一瞬誰だか分からなかった。あの時とはまったく違う、スラリとした笑顔がとても素敵なチャーミングなひと女性に変身されてたからね。

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そんな三人でのトークショーが始まった。森さんと中村さんは共に海(水)に生き、そこで様々な努力を続け、今も海(水)に関わり続けている。僕はと言うとたまたま海とチラリと関わったに過ぎない。なんの努力もしていない。完璧な蚊帳の外だ。そんな男が誰もが感心する海とのエピソードなど話せる訳がない。だから、正直に言いました。
「僕は海がキライです。船もキライです」
場内シーン、そして失笑。司会者も中村さんも目がテン……。
「そんな人がどうして海の話を書かれたんですか……?」
え――、そんな人、だからです!

海(水)が好きだったら僕自身海上保安官になってたかも知れないし、競泳でオリンピック目指してたかもしれない。でも、そうはならなかった。だから、海を客観的に見れた。これは事実そうだと思う。海(水)に直接関わる事で大事を成した二人、僕は間接的に関わる事で作品を生み出した。そういう役割なんだと思う。

壇上から下りようとしたら森さんが客席に声を掛けた。若者が立ち上がってこちらに向かって歩いて来る。聞けば新人海上保安官で、海保を目指したのは「トッキュー!!」を読んだからだと言う。しかも、一日で全巻を読破し、「なろう」と決めたのだそうだ。
会場の外ではお父さんと息子さんに挨拶された。「海猿」も「トッキュー!!」も何度繰り返し読んだか分からないと言われた。そして今、海保を目指していると……。
嬉しい。でも、正直ちょっと気が重いのもある。誰かの人生に影響を与えたなんてね……。いい加減に生きれないですよ、やっぱり。ちゃんとしなきゃなって思う。そしてこれからも、この人の作品、読んで良かったって思われるようにしたいね。

海(水)から始まった出会いは今や陸に空にと縦横に広がっている。まさに母なる海、豊穣の海だ。海よありがとう。感謝しつつ前に進もう。

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追記
ようやく九州北部も梅雨が明けた。――途端、コレやってます。今週末はもうワンフェスだ。またキットが増えるなぁ……。

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2012/7/17 火曜日

『シリトリ一週間』

小森陽一日記 11:37:48

さっきまで晴れてたと思ったら、突然どこからともなく黒雲が湧いて来て真っ暗になる。そして、稲妻を轟かせながら前が見えないくらいの雨が降る。ここんとこその繰り返し。しかもだ。猛烈な湿気を伴うから始末に悪い。あきらかに体調を崩す人が続出している。かく言う僕も身体がダルい。多分、寝苦しくてきちんと眠れていないんだと思う。早く梅雨が明けんかなぁ……。

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折角の連休なんで仕事の合間にキットを完成させようと思ってた。しかし、この天気じゃ塗れない。エアブラシから水が噴いてしまうからな……。サフ吹きまで終ったキットが並んでる。その横で新たなキットのバリ取り、磨き、パテ埋め作業。スカッと晴れてくれんと趣味にも影響が出まくりだ。

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こんな時はDVDでも見とこうと言う事で、コレ。「電脳コイル」。ロボット関係の仕事をされている方に「面白いですよ」と勧められ、一気に全話見。感想は……見れてホッとした。見ないまま過ごしていたらエライ事になっていた。電脳めがねの発想はもちろん面白いのだが、僕が魅かれたのはあの世界観だ。子供達が見えない世界で大変な事になっているのに、大人がほとんど出てこない。多分大人は知らないし分からないし知ろうともしない。そこにリアルさというか恐ろしさを感じた。
磯監督はそこをちゃんと分かってる。確信犯だ。

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話はズレるけど、大津の中二の男の子が自殺した事件。あれなんかもベースの部分が「電脳コイル」と同じような気がする。大変な事態になっているのに、結局大人には見えていない。そして事が起ったら慌てて隠そうとする。見えていませんでしたと恥かしくて言えないから……。そんな大人は自分の子供時代の事をよ~く思い出してみる事だ。きっと今の自分が情けなくて涙が出るぞ。

娘は中二、学校の事、友達の事、部活の事、ちょこちょこ話しをするが、僕の子供の頃より色んな事が複雑になってる感じがする。ギャップを感じる事も多々ある。そこに入っていてくれたのが、娘が五年生から中一まで家庭教師をやってくれたHさんだ。彼女は娘の話し相手だった。懐き方でそれがよく分かったものだ。今年から東京大手広告代理店にてバリバリ働いている。そんな彼女から先日贈り物が届いた。娘には可愛い水筒、我が家にはお皿。初任給で買ったそうだ。赤の他人の僕達に初任給で贈り物をする。この心遣いを僕は決して忘れない。

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シリトリのように話しを繋げたが、これで最後。
繋がりと言えば……僕と伊藤英明も知り合って長い。先日も電話で長話をした。最近の事、これからの事、色々と。「海猿4」も順調にヒットを続けている。本人もその事をとても喜んでいた。でもだ、お互いそれに満足する事なく進んでいかなくちゃならない。またいつか、僕の書く作品に出て欲しい。繋がってさえいればいつか必ず実現出来る。そん時はよろしく。

2012/7/10 火曜日

『出番です!』

小森陽一日記 9:42:47

博多の夏と言えばコレ、山笠だ。街を歩けばあっちこっちに法被姿の男衆を見掛ける。伝統だよなぁ、法被で街歩いていてもなんの違和感もない。今年は15日が日曜日、連休のど真ん中に当たる。きっと早朝から物凄い人手だろう。

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こちらは先日の日曜日の話、娘が所属する吹奏楽の発表会に出掛けた。朝は6時半に起きて朝練に出掛け、夜は十九時半まで練習して、家に帰って来たらもう二十時、夕食を食べて一息つくと、そのままリビングのソファでうとうと。こうなるとどんなに揺すろうともう無理で、制服のまま朝まで眠りこける事もしばしばだ。精も魂も尽きるように取り組んだ成果は……素晴らしかった。

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いや、これは娘だけでの話ではなく、どの学校の演奏も素晴らしかった。きゃりーぱみゅぱみゅの「つけまつける」(一年生部員の男の子が女の子に混じって舞台で踊った!)、ディープ・パープルのメドレー(先生、あんたの趣味だろう!)、そして、大好きなドラマ「坂の上の雲」のテーマ曲……、ゾゾゾと何度か鳥肌が立つくらい入り込んだ。娘に感謝しないといけないな、楽しい時間をありがとう!!

そしてもう一つ、これも今週発表の時を向かえる。
「海猿」だ。
凄いよなぁ、映画も4本目なんて……。当時、ヤンサンで連載していた頃、こんな展開になるなんてまったく予想もしていなかった。これもすべてファンの皆さんあっての賜物だと思う。

残念ながら僕は試写会に行けなかったが、みんなが僕の為にポスターにサインを残してくれた。隆太くん、ありがとう。あいちゃん、ありがとう。そして、英坊、ありがとう!
でもこれなんだ? 「小森先生さんへ」ってなんかヘンじゃねぇか???
さてはまた、なんかやらかそうと思ったか?

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「海猿4」、みなさんどうぞ愉しんでご覧下さい。

2012/7/3 火曜日

『立派におじさん』

小森陽一日記 10:58:52

こんなにさらさらの長い黒髪が似合う人を他に知らない。昔、僕がウルトラのガレージキット展をやった時に知り合ったKさんは、アートディレクターとして様々なイベントの企画に携わっていた。今は関東にある某有名美術館の学芸員だ。今回は彼氏連れにての凱旋。約二年振りの再会だったが、やはりさらさら長い黒髪は健在で、ちっとも歳を取ったようには感じなかった。

歳、と言えば―――、

こんな本がある。タイトルは「おじさん図鑑」、テレビや新聞で取り上げられているからご存知の方も多いだろう。著者であるなかむらるみさんが街にいるおじさんを観察し、模写し、分類している。これだけ真摯におじさんについて書かれた本は他にはない。

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この本、読むと……はまる。「いるいる」と思わずほくそ笑んでしまう。そして、ついつい自分はどのタイプか探してしまう。最近、本屋さんでふと気が付くと後で手を組んでしまっている自分、脂っこいものが好きな割には量が入らなくなってきた自分、ヒゲやもみあげが随分白くなって来た自分がいる……。

おじさんと言えば代名詞はこの人だろう。ジャック・タチ。タイトルもスバリ、「僕の伯父さん」は今でも時々見返すほど大好きな映画だ。ここに出て来る伯父さんの出で立ちは、帽子とパイプとこうもり傘とトレンチコート。この格好をすれば誰もがたちどころにおじさんに早変わり出来るベストアイテムである。しかし、同時にこの伯父さんはどこかモダンな感じがした。ちょっと美味しそうなワインを知っていてそうで、小奇麗なレストランのシェフと顔馴染みでいてそうで、素敵な景色が味わえる散歩コースを知っていてそうな感じがした。これは若い男には中々真似出来ない味だ。

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このジャック・タチが脚本を書いた「イリュージョニスト」もそんな伯父さんが主人公だった。三流のマジシャンでお金も名声も無いのだが、どこかモダンな感じを漂わせていた。人生のこだわりと同時にとっておきの何かを知っていそうな感じがしたものだ。

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あぁ、僕もそんなおじさんになりたい。成りは立派なおじさんなのだが、まだまだ深みが足りない。全然足りない。今だ迷う事の多い四十半ばのおじさんである。

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