2009/12/8 火曜日

『地底GO!GO!GO!』

小森陽一日記 15:42:12

師走は何かと忙しい。お歳暮、年賀状、大掃除にクリスマスパーティ、家庭の事情もさる事ながら、仕事の方もドタバタとなる。もう少し上手に振り分けられればいいのだが、なぜか毎年師走は大わらわとなる………。

先週、東京での取材、打ち合わせを終えて週末帰福。日曜日には娘の音楽発表会があったのでそれを聴きに行く。その夜は東京からマンガ家K氏が前入り、夕食を共にする。翌朝当日入りした編集Tくんと3人で地底へ………、寒空の下、真っ暗闇の下水道の中へと侵入した―――。

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福岡市道路下水道局の皆さんの全面協力により、下水道(雨水管)の様々な場所を取材する事が出来た。最初は雨水調整池に入った。調整池とは文字通り水を一時的に貯め、水の量をコントロールする施設。想定外と言われる雨の降り方が続く昨今、この調整池が果たす役割は大きい。………とは言え、そんな本来の目的よりも地下に広がるこの不思議な空間に見入ってしまった。薄暗い広間の中に整然と建つ無数の柱………、この感じ、まさにイスタンブールにある地下宮殿そのものだった。
そこから2400mmの円筒形の雨水管に浸入、様々な雨水管がぶつかる開合点に向かって歩く。懐中電灯を消せば文字通り真っ暗闇で、方向感覚や距離感さえ失われていく………。これは中々ゾッとする体験だった。
午後からは住宅街に移動して様々な大きさの雨水管に浸入した。中腰にならなければ入れない管、這って行かなければ進めない管、膝まで雨水に浸かって進む管などに全力でアタックした。午前中の立って歩ける管がどれほど夢のようなものなのか、肌身をもって知る事となった………。たった40~50mの距離なのに、どうしようもなく息苦しく、独特の匂いに苛まれ、じりじりと圧迫感に包まれながら、必死になって這い進んで行く。
「もしもこの中に取り残されたら………」 
にじり寄る恐怖は全身から流れる滝のような汗が物語っていた。

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下水道局の皆さん、そして関係業者の皆さん、本当にありがとうございました。このご恩は必ずや作品でお返しいたします。ネットでは決して分からないリアリティ、こんな機会を与えて頂いた事に感謝しつつ、作品に取り掛かりたいと思います。

ちなみに………本日猛烈な筋肉痛であります!!

2009/12/1 火曜日

『金婚式』

小森陽一日記 14:46:21

毎年訪れる結婚記念日、その中で50年添い遂げた夫婦に訪れるのが金婚式である。
この度、義理の父母が金婚式を迎えた。我が家と姉夫婦とでささやかなお祝いを開いた次第である。

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イタリアの郷土料理の店、「GASHIYO del mare」にてパーティ、ファグラやエスカルゴに舌鼓を打ち、生ビールや赤ワインで喉を潤す。主役そっちのけでしばし料理にがっついてしまった………。海の幸のリゾット、そしてスズキのパイ包み焼きに到る頃にはもう満腹………、ラストのドルチェに到っては撃沈寸前だった………。最初のペースはどこへやら、見事にペースダウンしてしまった。いつまでたってもコース料理には馴染めないせっかちな性格なのでした………。

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それにしても結婚50年か………。半世紀はやはり凄い。こうなったら55周年のエメラルド婚式、60周年のダイヤモンド婚式、頂点の75周年、プラチナ婚式まで駆け上がって頂きたいものだ。病気をせず、いつまでも仲良くお元気で!!

2009/11/24 火曜日

『THIS IS IT』

小森陽一日記 13:28:30

公開されて3週間以上が経った夜19:30の劇場は、すべての席が人で埋まっていた。まず、この事実に激しく驚いた。少なからず映画の興行の事は分かっている。映画は封切初日の2日間、土、日が大勝負なのだ。そこで当るかハズレるか、ほぼすべてが決すると言っても過言ではない。なのにこの「THIS IS IT」はなんだ?「崖の上のポニョ」でさえ、3週目でここまでの占有率はなかった筈だ。呆然としながら上映を待った。

答えはすぐに分かった――――。

マイケルがスクリーンに登場した時、ゾワッと全身に鳥肌が立った。自分でも不思議だった。そこまでマイケルにのめり込んだ事はない。妻はコンサートにも行ったほどのファンだったようだが、自分はポップスよりもロック、寝ても覚めてもブルース・スプリングスティーンだったから………。そんな自分がマイケルを見た途端、ゾワッと鳥肌を立てた。

マイケルがステージで踊り出す。選びに選び抜かれたダンサー達が心底瞳を輝かせてマイケルを見つめ、そして渾身のエネルギーでマイケルと共に踊り出す。マイケルは音楽も導いて行く。リズムがマイケルの動きと同化して行くのが手に取るようにわかる。一挙手一投足で音楽を巧みに操っていくのはマジシャンのようだ。光も映像もそう、何もかもがマイケルを中心に溶け合い、誰も体感した事がないほどの圧倒的な一体感が押し寄せて来る………。マイケルは終ってなんかいない。旬を過ぎてなんかいない。今が、この時が、この瞬間がすべて。そこには紛れもないキング・オブ・ポップの姿があった――――。

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決して妥協を許さず、最高のパフォーマンスを観客に届けようという姿勢、マイケルのそんな姿に人は胸を打たれる。これは言うなれば人生訓だ。キラキラと光り輝く燃焼という生き方をその身を持って見せてくれる。マイケルの姿を見つめながら、人はどう生きるべきかを想うのだ。そして何かを感じた人が友達に、兄妹に、恋人に、家族にその事を伝える。それが超満員の劇場へと繋がって行く。未見の方、この作品はお勧めします。

決して上から目線で言う訳じゃない。ただ、映画を観た後に心底こう思った。マイケルにコンサートをやらせてあげたかった………。

追記
11月22日は語呂合わせで「いい夫婦の日」なんだそうである。ちなみに嫁さんの誕生日もこの日なのだ。もちろんプレゼントは日頃の感謝を込めて、本人の欲しいというものを送らせて頂きました。一つじゃなかった………。二つだった………。
翌日は勤労感謝の日、冬支度の一環としてバカボンのパパよろしく庭師として頑張りました!!

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2009/11/17 火曜日

『山崎豊子さんを追っ掛けて』

小森陽一日記 15:41:19

世は再び山崎豊子ブームなのだそうだ。ちなみに僕は違う。ブームと言うのは浮き沈みする事。山崎さんに関して、僕はまったく浮きもしなければ沈みもしない。ずーっと好きで追い掛けている一追っ掛けファンなのだ。

 今秋からフジテレビが「不毛地帯」のオンエアをスタートさせた。開局50周年記念番組、もちろん第1話から毎週欠かさず見ている。1976年、今から33年前、山本薩夫監督がメガホンを取った映画も観た。二次防でラッキードとグラント、近畿商事と東京商事の熾烈な攻防をメインに据えて描かれた作品だった。壱岐を仲代さんが、川又を丹波さんが、貝塚を小沢さんが演じていた。もちろん映画も面白かったが、如何せん尻切れトンボの感は否めなかった。だって山崎さんの「不毛地帯」、壱岐正の商社マンとしての闘いはまさにそこから始まるのだから………。
今回フジテレビは2クール、半年掛けての放送枠でそれに応えるという。唐沢さんの壱岐、原田さんの大門、岸辺さんの里井、遠藤さんの鮫島、小雪さんの千里……、キャスティングはほんとにはまっている。ホンもまったく媚たところがなくて好きだ。かつ、原作の出来事をより壱岐に集約させていて、それがまた劇的な効果を生んでいる。素晴らしい。さらにエンディングテーマ、トム・ウェイツの濁声が聞こえてきた時には心底しびれた。泣けてきた。フジテレビの本気、底力を存分に見た感じだ。スタッフ・キャストの皆さん、大変だと思いますが、どうかこのまま真っ直ぐに突っ走って下さい。心より楽しみにしております。

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もうひとつ、先日「沈まぬ太陽」を観た。幾つかの理由で映画化不可能と言われて来た山崎さん渾身の作品の完全映画化だ。上映時間3時間22分、久し振りのインターミッション付き………、しかし僕は長さを感じなかった。むしろもっと観たいと感じるほどだった。個人、友人、家族、会社、誇り、この作品には無数のキーワードが存在し、様々な出来事を通して自分の胸に突きつけられる。「あなたならどうする?どう生きる?」と………。渡辺謙さん演じる恩地と三浦友和さん演じる行天は言うに及ばず、りつ子を演じた鈴木京香さん、そして行天の愛人、美樹を演じた松雪泰子さんが素敵だった。椿のCMの受け売りではないけど、日本女性の良さをあらためて感じる事が出来た。とにかくこの「沈まぬ太陽」はスタッフとキャストが本気で取り組み、本気の映画を産み出せる土壌がこの日本にはあるんだ、その事を思いっ切り感じさせてくれた。心から賞賛の拍手を送りたいと思う。

2009/11/10 火曜日

『特撮に想いを馳せた夜』

小森陽一日記 11:04:28

今時の人は特撮と聞いてもピンと来ないかもしれない。特撮とは特殊撮影の略称、創造力と技術力とそれを成し遂げようという努力によって産み出された、誰も見た事のない映像世界だ。今のCGを否定する気はまったくないし、CG映像も大好きだ。だが、特撮はやはり自分の原体験、血肉として、特別なものとして今も尚僕の中に深くある。

それは実に唐突だった―――。
ある日、佐原健二さんからマネージャーを兼ねた息子さんを通してメールが届いた。「福岡で仕事があるので、それが済んだら食事をしよう」というお誘いだった。もちろん伺わない訳がない。万難を排して駆けつけます!との返事をさせて頂いた。僕にとってはスクリーン上の、ブラウン管の中の、そして愛すべき特撮作品の主役、佐原健二さん。「空の大怪獣ラドン」では炭鉱技師、河村繁、「マタンゴ」では漁師、小山、「モスラ対ゴジラ」では金の亡者、虎畑、「ゴジラ」シリーズでは最多出演を誇り、「ウルトラQ」では主役の万城目淳………、特撮街道をひた向きに歩かれ、そのキャリアは55年、今も尚元気で新作に出演を続けられている。そんな佐原さんと酒を酌み交わし、その夜は当時の話をたっぷりと聞かせて頂いた。東宝に入社した頃の話、ゴジラへの想い、「ウルトラシリーズ」の裏話………、差し向かいでこんな話が聞けるなんて、本当に夢のようである。

「252」の最初のプロットを書いた時、崩落したトンネルの中に閉じ込められる老夫婦がいた。僕はその夫を佐原さんのイメージで書いた。何度か設定の変更を繰り返す内にその老夫婦はいなくなってしまったのだが………、もしその役が固まっていれば、僕はプロデューサーに佐原さんの名前を出すつもりだった。いや、佐藤Pには一度そういう話をしたかもしれない。
憧れの人と仕事をご一緒する事は全然諦めていない。念じていれば何かの折には必ず実現するものだ。佐原さん、どうかいつまでもお元気で。必ずお声を掛けに参ります!

「素晴らしき特撮人生」 佐原健二著 小学館
ご本人の人となりがとても表れている本です。そして特撮の事が、想いがよく伝わってきます。
皆さん、是非ご一読を!

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